M&A・事業承継に取り組まれる中小企業の経営者の皆様が、承継先(買主)によるデュー・ディリジェンスの際に直面する典型的な論点の1つに、株券発行会社における過去の株式譲渡の有効性というものがあります。
この問題は、株券発行会社である株式会社において、設立から現在に至るまでの間に株式譲渡が行われている場合に、旧株主から新株主に対して株券(株券としての法律上の要件を満たした証書のこと)が交付されていなければ、株式譲渡の効力が発生しないため、現在の株主(形式上、株主名簿に記載されている株主)は真の株主ではなく、したがって当該株主を売主とした取引を行うことができないのではないか、というものです。
この問題に関連して最高裁判所は、「株券の発行前にした株券発行会社の株式の譲渡は、譲渡当事者間においては、当該株式に係る株券の交付がないことをもってその効力が否定されることはない」旨を判示しました。
最高裁判所ウェブサイト:https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=92912
今回の最高裁判決により、株券発行会社において株券の交付のない株式譲渡が行われても、取引の当事者間では当該株式譲渡が有効であることが明確となり、設立からかなりの時間が経過している株券発行会社もM&A・事業承継に取り組みやすくなったと考えられます。
他方で、過去の株主が把握できない、あるいは相続等により株主が分散していて株式を集約できないといった問題については、株式交換・株式移転、所在不明株主からの株式売却許可申立てなどの手法を用いて、M&A・事業承継を進めていく必要があります。
承継先(買主)によるデュー・ディリジェンスの開始後にこれらの問題が発覚すると、M&A・事業承継そのものがストップしてしまったり、交渉上不利に働く可能性がありますので、M&A・事業承継に取り組まれる初期の段階で、自社の株式に法的な問題がないか確認することをお勧めいたします。
※本コラムの内容は、一般的な情報提供であり、具体的なアドバイスではありません。お問い合わせ等ございましたら、当事務所までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願いいたします。