M&A・事業承継のスキームには様々なものがありますが、最も利用されるスキームは株式譲渡です。
株式譲渡は、会社の株主が売主となって、その保有する株式を買主に譲渡する取引のことであり、そのため株式譲渡契約の当事者は売主と買主であり、会社そのものは当事者とはなりません。その意味で株式譲渡契約は、会社そのものが売主となる事業譲渡や会社分割とは契約内容が異なったものとなります。
株式譲渡契約には、他の取引における契約とは異なるポイントがいくつかありますが、本コラムではそのうち、「誓約事項」(「コベナンツ」とも呼ばれます。)について解説させていただきます。
1. 誓約事項の意味について
株式譲渡契約に限らず、M&Aに関する契約では「誓約事項」という項目が設けられることが一般的ですが、日常的な用語ではなく、一見するだけでは「誓約事項」が具体的に何を意味するのか分からないかと思います。
誓約事項というのは、言い換えれば当事者に対して「義務」や「制限」を課す内容の契約条項のことです。
例えば売主の誓約事項として、「株式譲渡の実行までに、株式譲渡の実行について取締役会の承認を得ること」という義務を課したり、「株式譲渡の実行までの間は、買主の同意を得ることなく増資をしてはならない」という制限を課したりすることがありますが、このような規定の総称を「誓約事項」と呼んでいます。
その上で、当事者のいずれかが誓約事項に違反した場合には、他の当事者が違反した当事者に対して次のような措置を講じられるようにしておくことが一般的です。
①違反状態の是正の要請
②株式譲渡を実行しない
③損害賠償請求
④契約の解除
なお、上記①~④のいずれの措置を講じることができるかについては、誓約事項の重要性によって差異を設けることが通常です。
軽微な誓約事項の違反でも常に株式譲渡の実行をしないという選択肢を与えてしまうと、株式譲渡を行うことが困難になりかねないためです。
反対に、重要な義務の違反があった場合には、株式譲渡を実行しないことを選択ができるようにしておくことが、リスク回避の観点からは必要となります。
2. 株式譲渡契約における誓約事項
それでは、株式譲渡契約における誓約事項はどのように決まるのでしょうか。
上述した「株式譲渡の実行までに、株式譲渡の実行について取締役会の承認を得ること」という義務や、「株式譲渡の実行までの間は、買主の同意を得ることなく増資をしてはならない」という制限は、株式譲渡というスキームを選択した以上、当然に規定すべき内容として、通常の株式譲渡契約であれば常に規定されている種類のものです。
他方で、株式譲渡契約においては、個別のM&A・事業承継に特有の誓約事項が規定されることも珍しくありません。
例えば、買主が行ったデューデリジェンスの過程において何らかの問題(法律違反の状態等)が発見された場合には、その問題を株式譲渡の実行までに解消することを、誓約事項として規定することがあります。
また、対象会社が締結している契約に、チェンジ・オブ・コントロール条項(COC条項とも呼ばれます。)が含まれている場合には、株式譲渡の実行により当該契約が解除されないように、売主の誓約事項として、COC条項に則った対応を取る(あるいは会社に取らせる)旨を規定することもあります。
当事務所に相談に来られる依頼者から、「デューデリジェンスは何のためにやるのか」というご質問をいただくことがありますが、デューデリジェンスは単に問題点を把握するだけでなく、株式譲渡の実行までに発見した問題を解消させるためにも必要な準備行為となります。
このように、誓約事項には定型的な内容のものに加えて、各案件に特有の内容のものがあります。
3. まとめ
本コラムでは、株式譲渡契約における誓約事項について、概要を解説させていただきました。
M&A契約は日常的な取引ではないため、契約内容を十分に意味が理解できないことが通常です。他方で、取引の規模は日常的な取引よりも大きい場合が多く、契約内容を理解していないと思わぬリスクを背負うことになりかねません。
当事務所では100件以上のM&A・事業承継をサポートした経験のある弁護士が、買主・売主の双方の立場から株式譲渡契約をはじめとするM&A契約のレビュー・アドバイスを行っております。M&A・事業承継でお悩みの方は、ぜひ当事務所までご相談ください。
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