弁護士コラム

弁護士コラム「個人事業主とのM&A」が掲載されました。

2024.07.29

現在では、大企業に限らず多くの会社が事業の企業成長の手段の1つとして、M&Aを積極的に活用されています。

M&Aには様々な手法があり、目的に応じて株式譲渡、合併、会社分割などのスキームを検討する必要がありますが、個人事業主とのM&A(厳密には、「個人事業主が営む事業を対象としたM&A」を意味します。)においては、株式会社を対象としたM&Aとは異なる注意点がいくつかあります。

個人事業主とのM&Aは、特にアパレルやクリニックなどに多く見られ、当事務所でも多くのご相談をいただいております。

そこで本コラムでは、買主の立場から見た、個人事業主とのM&Aにおける注意点をいくつか解説させていただきます。

 

1. 個人事業主とのM&Aにおけるスキーム

冒頭でM&Aには様々な手法がある旨を記載させていただきましたが、個人事業主とのM&Aにおいては、現在の会社法・商法のもとで取り得るスキームは事業譲渡(買主の立場からは、「事業の譲受け」)のみとなります。

株式譲渡は、株式会社が発行する株式を取引の対象としたスキームであり、合併、会社分割などの組織再編も法人を前提とした制度であるため、個人事業主とのM&Aにおいては消去法的に事業譲渡を選択せざるを得ないこととなります。

もちろん、M&Aに先立ち個人事業主においていわゆる「法人成り」を行い、その上で株式譲渡などのスキームを採用することは可能ですが、買主側で新しい法人を設立し、当該法人が直接の買主となって事業を譲り受けた方が、手続としてはシンプルと思われます。

なお、買主の立場からM&Aのスキームを検討する場合、税務の観点からどのスキームを採用すれば税負担が最も軽くなるかを検討することが通常ですが、上記のとおり個人事業主とのM&Aにおいては事業譲渡が唯一の選択肢となりますので、税務の観点からの比較検討を行うことができず、この点は買主にとってデメリットとなることもあります。

 

2. 個人事業主に対するデュー・ディリジェンスの要否

買主がM&Aに取り組む際には、法務・財務・税務の観点から調査(デュー・ディリジェンス)を実施することが通常ですが、個人事業主とのM&Aにおいては、規模が小さく、また売主である個人事業主の繁忙状況もあいまって、デュー・ディリジェンスが行われないケースも珍しくありません。

しかしながら法務の観点から申し上げますと、規模が小さいこと=リスクも小さいということにはならず、極端なケースでは支払った対価以上の損失が生じることもあります。

とりわけ個人事業主の場合、取引先との契約、テナントの賃貸借契約、金融機関との契約、リース契約などの契約の主体が個人となっており、簡単には契約主体を切り替えられないこと、また譲渡対象事業において利用している重要な資産について、個人が私的に使用しており譲渡できないことが実行時に判明するなど、特有のリスクがいくつかあります。

事業譲渡に限らずM&Aは一度実行してしまうと元に戻すことが非常に難しいため、個人事業主とのM&Aであっても最低限のデュー・ディリジェンスを行い、そこで検出されたリスクの内容に応じて契約を作成することが必要です。

 

3. 事業譲渡契約の内容

最後に、事業譲渡契約の内容について簡単に触れさせていただきます。

事業譲渡契約の内容自体は、個人事業主とのM&Aであっても、法人と法人の間の事業譲渡におけるものと大きく異なるところはありません。

そのため、この点は個人事業主とのM&Aに限った話ではありませんが、①デュー・ディリジェンスにおいて検出されたリスクの対処法、②取引先との契約が承継されなかった場合の対応策、あるいは③売主である個人事業主への補償請求(損害賠償請求)をどのように担保するかなど、M&Aのスキームとして事業譲渡を選択したことに応じて事業譲渡契約を適切に作成する必要があります。

 

4. まとめ

本コラムでは、買主の立場から見た、個人事業主とのM&Aにおける注意点をいくつか解説させていただきました。

日本では事業が一定の規模を超えると法人化した方がメリットを受けられますので、個人事業主とのM&Aは自然と小規模なものになりますが、だからといってM&Aにリスクが無いわけではありません。

M&Aにはリスクが伴うことを前提に、リスクについてどう対処するか、対処できないリスクがある場合には勇気をもって撤退することも、買主の立場からは重要です。

当事務所では、買主・売主の立場にかかわらず、M&Aに関する初回相談は無料で承っておりますので、M&Aでお悩みの方はこちらのお問い合わせフォームからぜひご相談ください。

 

※本コラムの内容は、一般的な情報提供であり、具体的なアドバイスではありません。お問い合わせ等ございましたら、当事務所までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願いいたします。

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