弁護士コラム

弁護士コラム「M&A仲介会社による契約交渉の可否」が掲載されました。

2024.08.20

近年、中小企業が事業承継・M&Aに取り組むにあたりM&A仲介会社を利用するケースが増えています。

M&A仲介会社はその名のとおり、M&Aの「仲介」を主な業務としており、マッチングと呼ばれる候補先の紹介や、事業承継・M&Aのプロセスの管理などを担当することが通常です。

M&A仲介会社を利用した場合の事業承継・M&Aの一般的なプロセスは以下のとおりです。

 ①候補先の紹介・選定⇒②初期的な資料開示⇒③基本合意(基本合意の締結は必須ではなく、締結しないこともあります。)⇒④デュー・ディリジェンス(DD)⇒⑤買主による意向表明書の提出⇒⑥最終契約の締結に向けた交渉⇒⑦最終契約の締結⇒⑧契約の実行に向けた準備⇒⑨契約の実行(株式譲渡契約であれば、株式譲渡の実行)

 さて、事業承継・M&Aを進める上では専門的な知識・経験が必要となりますが、そのような知識・経験を持たない事業承継・M&Aの当事者にとっては、M&A仲介会社に利用した場合、何をどこまでお願いしてよいのかがポイントになります。

上述した事業承継・M&Aのプロセスのうち、とりわけ⑥最終契約の締結に向けた交渉は、当事者間の合意内容、義務・責任を定めるものですので、当事者にとって非常に重要となります。

そこで本コラムでは、事業承継・M&Aにおける契約交渉の概要、及びM&A仲介会社に契約交渉を依頼できるかについて解説させていただきます。

 

1. 事業承継・M&Aにおける契約交渉の概要

事業承継・M&Aが進み、買主から意向表明書が提出されると、売主は当該意向表明書の内容を踏まえて事業承継・M&Aを進めるか判断することになります。

事業承継・M&Aを進める場合、当事者間の合意内容を規定するべく、売主または買主、あるいはそれらのアドバイザーが最終契約のドラフトを作成し、そのドラフトをベースに最終契約の内容について交渉を行うことになります。なお、最終契約のドラフトをどちらが作成するかについては決まったルールがあるわけではありませんが、ドラフトを作成する上では自らに有利な内容とすることが通常ですので、ドラフトの作成を相手方に委ねることはお勧めしておりません。

ドラフトが完成すると最終契約の交渉が始まりますが、事業承継・M&Aに関する最終契約は一般的な契約よりも検討事項が多いため、交渉にも一定の時間を要します。例えば、一般的な内容の株式譲渡契約であれば、契約交渉に1か月程度を要することが多いと思われます。

交渉の対象となる事項については、当事者が何を重視するかにより異なる部分はあるものの、契約の実行まで/契約の実行後に当事者が行うべき事項(誓約事項/コベナンツ)、補償(損害賠償)の範囲・期間といった一般的なものに加えて、事案により競業避止義務などが交渉の対象となります。また、最終契約の交渉が始まった後に当事者が認識する論点もあります。このような点を踏まえますと、事業承継・M&Aに関しては、「修正を加えることなく締結できる」という意味での、最終契約の「ひな型」というものを想定することが難しく、事案に応じて契約内容を作りこむことが必要と考えています。

 

2. M&A仲介会社による契約交渉の可否

それでは上述した事業承継・M&Aにおける契約交渉について、M&A仲介会社に依頼することができるか否かですが、結論としては、契約交渉をM&A仲介会社に依頼することはできません。

その理由ですが、一つは冒頭で述べたM&A「仲介」会社としての性質によるものです。ぐなわち、M&A仲介会社は売主・買主の双方から業務を受託しているため、もし仮に交渉を行うとなると、自らの依頼者と交渉する事態となってしまうためです。

既にM&A仲介会社と契約を締結されている場合には、M&A仲介会社との契約を確認いただければと思いますが、上記の理由からM&A仲介会社は自らの業務内容として「交渉」そのものは含めておらず、「交渉のサポート」や「交渉の助言」を行う建付けとしていることが通常です。

もう一つの理由は形式的なものですが、弁護士法上、契約交渉を行うことができるのは弁護士のみとされており、弁護士以外の者が契約交渉を行うと刑罰に処せられる可能性があるためです。

このような理由から、M&A仲介会社に最終契約の交渉を依頼することはできません。

そのため契約交渉においては、M&A仲介会社とは別に弁護士にサポートを依頼する必要が高いものの、実際には弁護士が関与することなく、最終契約の交渉過程が当事者(特に売主)にとって不透明で、自分の要望が相手方に伝わっているのか、相手方が何を気にしているのか等が分からないままに最終契約を締結し、後にトラブルとなるケースが増えているのが実情です。

事業承継・M&Aは極めて専門的な取引ですので、契約交渉の場面のみでも弁護士に相談されることをお勧めします。

 

3. まとめ

本コラムでは、事業承継・M&Aにおける契約交渉の概要、及びM&A仲介会社に契約交渉を依頼できるかについて解説させていただきました。

事業承継・M&Aを進める上で、契約交渉は避けて通れないプロセスになります。また、最終契約の一部は事業承継・M&Aの実行後も効力が存続するため、後のトラブルを防ぐためにも契約交渉は重要なものとなります。

なお、事業承継・M&Aの実行後のトラブルについては、こちらのコラムをご参照ください。

当事務所では、契約交渉はもちろんのこと、事業承継・M&Aのプロセス全体をサポートしておりますので、事業承継・M&Aを検討中でお悩みの方は、お気軽にご相談いただければ幸いです。

また、事業承継・M&Aに関する初回相談は無料で承っておりますので、お電話またはこちらのお問い合わせフォームからぜひご相談ください。

 

※本コラムの内容は、一般的な情報提供であり、具体的なアドバイスではありません。お問い合わせ等ございましたら、当事務所までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願いいたします。

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