弁護士コラム

弁護士コラム「自社に対するデュー・ディリジェンス(セラーズDD)の活用」が掲載されました。

2024.10.08

M&A・事業承継の場面では、買主・承継先による対象会社の調査(デュー・ディリジェンス)が行われることが一般的です。

買主・承継先は、デュー・ディリジェンスにより対象会社に潜んでいる問題を把握し、それを踏まえて譲渡代金や契約内容の検討を行うことを想定しているのみでなく、その問題に関するリスクが大きい場合にはM&A・事業承継の検討を中止することもあり得ます。(M&A・事業承継の検討中止を余儀なくされるような問題を、「ディールブレイカー」と言うこともあります。)

また、買主・承継先が行ったデュー・ディリジェンスの結果について、売主に対してそのまま開示されることはほとんどなく、そのため、中小企業のM&A・事業承継における売主(オーナー社長)は、対象会社についてのリスクを、契約交渉が開始し、買主・承継先が契約に記載した当該リスクへの対応策を確認することで、はじめて認識するケースも珍しくありません。

しかしながら、契約交渉よりも早い段階で対象会社に潜む問題を把握していれば、売主はデュー・ディリジェンスの開始前にその問題に対処することができますので、これにより自らに有利に契約交渉を進めることも可能となります。

このような、売主が対象会社に対して行うデュー・ディリジェンスは「セラーズ・デュー・ディリジェンス」(以下「セラーズDD」と記載します。)と呼ばれますが、本コラムではセラーズDDの有用性及び具体的な活用方法について解説させていただきます。

また、セラーズDDの派生形としてのベンダー・デュー・ディリジェンス(以下「ベンダーDD」と記載します。)についても簡単にご紹介させていただきます。

 

1. セラーズDDを行うことのメリット・デメリット

 冒頭でも記載したとおり、セラーズDDによって売主は契約交渉を有利に進めることが可能となりますが、加えて以下のようなメリットがあります。

 

 ・セラーズDDDD資料や質問への回答を準備しておくことで、買主・承継先によるDDの場面で、DD資料の提出、質問への回答をスムーズに行うことができる
・売主側のアドバイザーによるDDを経験しておくことで、買主・承継先によるDDの際の心理的な負担が軽減される
・ディールブレイカーとなるような大きな問題が発見された場合には、その問題が解決するまでM&A・事業承継の検討を一時中断し、解決に専念することで、買主・承継先の目途が付いた後でブレイクとなる事態を回避することができる

 

一方で、セラーズDDを行うことのデメリットとしては、セラーズDDのためのコスト(専門家費用)の支出や、売主側での負担が挙げられますが、上記のメリットと比較すれば、デメリットは許容できる場合も多いと考えられます。

 

2. セラーズDDの進め方

次に、セラーズDDの具体的な進め方について解説させていただきます。

セラーズDDを行うタイミングとしては、売主側での事業計画やインフォメーション・メモランダム(IM)を準備しているタイミングで、これと並行して行うことをお勧めしております。

その理由としては、事業計画やIMの準備の際はフィナンシャル・アドバイザーが対象会社の計算書類などを確認する必要があるところ、これらの書類はDD資料と重複するものもありますので、このタイミングでセラーズDDを行うと、資料を効率的に準備できるためです。

会社の経営と並行してM&A・事業承継の準備を進める売主の負担を軽減する上では、このような工夫も重要になると考えております。

 

なお、いわゆるキーマンとなる従業員へのインタビューをセラーズDDの段階で実施するかどうかは慎重に判断する必要があります。

これは、情報管理の観点からM&A・事業承継の準備は限られたメンバーで内密に進める必要があるところ、キーマンへのインタビューによりM&A・事業承継を検討していることが明らかになり、キーマンやその他の従業員が退職するといった事態を防ぐことが理由です。

 

3. ベンダーDDについて

 最後に、セラーズDDの派生形としてのベンダーDDについて、簡単に紹介させていただきます。

ベンダーDDとは、主に入札形式でのM&A・事業承継において、売主側のアドバイザーが対象会社に対してDDを行い、当該DDに関する報告書を買主・承継先に対して配布するというものです。

売主側のアドバイザーが対象会社に対してDDを行うという点ではセラーズDDと同様ですが、DDの報告書を買主・承継先に対して配布するという点で、大きな違いがあります。

ベンダーDDの利点は、入札形式で複数の候補先がいる場合、各候補先が独自にDDを実施するとなると、売主・対象会社側の負担が膨大なものとなるため、売主側で一括してDDを行い、負担を軽減させる点にメリットがあります。

 ベンダーDDが行われるケースはかなり珍しいですが、ベンダーDDを行う場合、①その費用を誰がどのように負担するか、②ベンダーDDに加え、買主・承継先による簡易の追加DDを認めるかなどが論点となります。

 

4. まとめ

本コラムでは、セラーズDDの有用性及び具体的な活用方法の解説に加え、ベンダーDDについても紹介させていただきました。

セラーズDD・ベンダーDDは、売主がご自身に有利な形でM&A・事業承継を進めるための方策の1つとなります。また、DDの段階からアドバイザーが関与していることは、最終契約の交渉においても売主にとって有利な結果に働き得るものです。

M&A・事業承継を検討しているが、予め自社のリスクを把握しておきたいといったニーズがあれば、セラーズDDを活用されることをお勧めいたします。

当事務所では、セラーズDD・ベンダーDDを含め、事業承継・M&Aのプロセス全体をサポートしておりますので、事業承継・M&Aを検討中でお悩みの方は、お気軽にご相談いただければ幸いです。

また、M&A・事業承継に関する初回相談は無料で承っておりますので、お電話またはこちらのお問い合わせフォームからぜひご相談ください。

 

※本コラムの内容は、一般的な情報提供であり、具体的なアドバイスではありません。お問い合わせ等ございましたら、当事務所までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願いいたします。

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