弁護士コラム

弁護士コラム「買主・承継先を探索する際の注意点」が掲載されました。

2025.01.08

M&A・事業承継を検討されている経営者にとって、買主・承継先がどのような会社であるかは、極めて重要な点になります。

M&A・事業承継の実行後も従業員の雇用が維持されるのか、経営者の連帯保証は適切に処理されるかなどについては、買主・承継先が一定の責任を負うものですので、その意味でも信頼できる買主・承継先を選択する必要があります。

近時、M&A仲介会社から紹介された買主・承継先に対して自社の株式を譲渡した後、経営者の知らない間に事業が停止し、従業員が解雇されてしまうのみでなく、会社が廃業したことにより金融機関からの借入れについて、連帯保証人である経営者に対して返済請求がなされるといった問題が発生しています。このような問題が生じると、中小企業のM&A・事業承継が阻害され、自社のみでなく取引先の従業員の生活や、地域経済に重大な悪影響が生じることになります。

そこで本コラムでは、M&A・事業承継を検討する際に、買主・承継先を探索する際にどのような点に注意する必要があるのか、またそのような注意点の確認方法につき解説させていただきます。

 

1. 買主・承継先が過去に行ったM&Aの有無、概要の確認

まず、買主・承継先が過去にもM&Aを行ったことがあるのか、行っている場合にはどのようなM&Aであったかを確認する必要があります。

そもそも買主・承継先がM&Aを行ったことがない場合、これ自体をポジティブに評価することはできないため、M&A・事業承継の実行後の運営体制、経営者の連帯保証の処理の方針などを、「事前に」きちんと確認しておく必要があります。

ここで、「事前に」という点を強調しているのは、これらの点を確認しないままデュー・ディリジェンスや契約交渉を進めてしまうと、最終局面で「今回が初めてのM&Aである」ことが明らかになった際に、そこに至るまでにかなりの時間と労力をかけている経営者は心理的に後戻りできなくなる可能性が高いためです。

 

次に買主・承継先が過去にもM&Aを行っている場合には、そのM&Aの概要(承継した会社の業種が自社と同じか、承継した会社の規模、おおよその譲渡対価など。)と、トラブルの有無を確認する必要があります。

M&Aを頻繁に行っている会社の多くは、M&Aの実行後も適切に承継した会社を運営しているからこそM&Aを繰り返し行うことが通常ですが、例外的に、承継した会社の現預金を抜き取ることだけを目的としてM&Aを繰り返しているとしか考えられない会社も存在します。

買主・承継先による過去のM&Aの概要を確認し、不審な点があれば質問し、納得できる回答が得られないのであれば、その時点で当該買主・承継先との交渉は中止するという判断も時には必要となります。

 

2. 買主・承継先の経営状況・資金力

買主・承継先の経営状況・資金力も、買主・承継先を選択する際の重要なポイントです。

M&A・事業承継の対価は実行時に一括で支払われることが通常ですが、経営状況が悪く、資金力に不安がある買主は、契約交渉の段階になって、対価の分割払いを提案してくるケースがあります。

また、経営者が会社の金融機関からの借入れや賃貸借契約について連帯保証人となっている場合、M&A・事業承継の実行後にこれを解除してもらう上で、買主の経営状況が安定しており、資金力もある状況でなければ、金融機関や賃貸借契約の貸主の承諾を得ることが難しくなります。

買主・承継先が自社の経営状況・資金力をどこまで明らかにできるかは状況により異なるかと思いますが、決算書(可能であれば過去3期分)、金融機関が発行する預金の残高証明書などの開示を受けることができれば、買主・承継先の経営状況・資金力を把握することが可能となります。

 なお、買主・承継先がPEファンドなどの場合を除き、「SPC」と呼ばれる法人(M&Aのために新たに設立した、事業を行っていない法人)が買主となる場合には、特に注意が必要です。

SPCは事業を行っておらず、資金力もない(M&A・事業承継の実行時に、対価に相当する金額を、親会社や金融機関から調達するのみ)ため、何かあった場合に責任を追及することが難しいためです。

SPCが買主となる場合は親会社に連帯保証をさせるなど、一定の工夫が必要となります。

 

3. 買主・承継先との面談の実施

買主・承継先を選択する際には、上記1.2.に記載したポイントを確認し、確認した内容に応じて最終契約を作成することになりますが、これらのポイントを確認する上で、なるべく早いタイミングで買主・承継先との面談を実施することをお勧めいたします。

決算書などの客観的な資料の確認とは別で、買主・承継先と直接会って話をすることで得られる情報は少なくありません。

なお、M&A仲介会社と締結する契約では、買主・承継先との直接のコミュニケーションを禁止する旨の条項が入っておりますが、これは基本的にはM&A仲介会社などの都合で規定されているもので、上述したポイントを確認するために買主・承継先と面談することは経営者にとって必要性が高いものです。

また、買主・承継先にとっても経営者との面談は必要なプロセスですので、何らかの理由で直接の面談が実施されず、かつその理由も納得ができないものであれば、買主・承継先の資金力などに問題がある可能性があります。

 

4. まとめ

本コラムでは、M&A・事業承継を検討する上で、買主・承継先を探索する際の注意点について解説させていただきました。

「悪質M&A」と呼ばれる事案に巻き込まれると、経営者のみでなく、従業員や取引先にも多大な悪影響が生じることになります。そのため、買主・承継先を探索する際には、本コラムに記載したポイントを含め、不審な点がないか確認し、場合によってはプロセスの中止の決断も必要となります。

当事務所では、M&A・事業承継を熟知した弁護士が、買主・承継先との交渉を含め、M&Aのプロセス全体をサポートしておりますので、買主・承継先の探索などでお悩みの際は、お電話またはこちらのお問い合わせフォームからぜひご相談ください。

 

※本コラムの内容は、一般的な情報提供であり、具体的なアドバイスではありません。お問い合わせ等ございましたら、当事務所までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願いいたします。

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