M&A・事業承継の検討が進み、最終段階になると、売主・買主の間で契約内容の交渉が行われることになります。
M&A契約は、日常的な取引に関する契約よりも専門的な内容であり、かつ分量も多いところ、このようなM&A契約について売主・買主のいずれがドラフトすべきなのか、というご相談をいただくことがあります。そこで本コラムでは、この点についての考え方を、M&A契約における交渉事項と併せて紹介させていただきます。
なお、M&A仲介会社が関与する案件では、M&A仲介会社が契約のドラフトを準備することがありますが、過去の経験上、M&A仲介会社が準備した契約は買主に有利な内容となっている場合が多く、少なくとも売主の立場からは、M&A仲介会社が準備したドラフトをベースに契約交渉を行うことにはリスクがありますのでご注意ください。
1. M&A契約における交渉事項
はじめに、M&A契約における交渉事項について解説させていただきます。
M&A契約において規定される項目は、一般的には以下のとおりです。
①当事者
②対価・対価の支払方法
③M&A実行の前提条件
④誓約事項(当事者の義務)
⑤表明及び保証
⑥補償(損害賠償)
⑦一般条項(契約の終了、秘密保持、裁判管轄など)
上記のうち、①・⑦が争いになることはそれほどありません。
また、②の対価については交渉の対象となるものの、契約交渉というよりも経済条件の交渉です。他方で、対価の支払方法については交渉の対象となります。具体的には、いわゆるアーン・アウト条項を適用する場合の支払条件や、対価の一部の支払を留保する(エスクローなど)場合です。
もっとも、M&A契約における主要な交渉事項は、上記のうち③~⑥です。
③~⑥はM&A契約に特有の専門的な内容が多く含まれているため、M&A契約に慣れていない方がドラフトを見ると、どの点が自らに有利・不利かの区別が付かず、そもそもどのような事項に関する規定なのかも分からないことが一般的と思われます。
しかしながら、上記③~⑥の事項は、その内容によってはいずれかの当事者に極めて有利・不利なものとなりますので、内容を理解できないからといってそのまま放置することは大きなリスクを伴います。
一例として、買主側でM&A契約をドラフトした場合、上記⑥の補償(損害賠償)の規定については、金額の上限、期間の制限を設けないこともあります。もしこの内容のまま契約を締結した場合、売主は、M&Aの実行後、譲渡対価を超える補償義務(損害賠償の義務)を、将来にわたって負担する可能性があるということになります。
そのため、売主側では補償に関する規定について、金額の上限(場合によっては下限も)と、期間の制限を設け、M&A実行後のリスクを最小化することを目指す必要があります。
2. M&A契約のドラフトの流れ
それでは、M&A契約のドラフトはどのような流れで行うべきでしょうか。
この点について、法律により定められたルールがあるわけではありませんが、売主が複数の候補先から入札を募るオークション方式の場合には、売主側がM&A契約をドラフトすることが一般的です。これは、売主が最終的な買主候補を決める上で、金額のみでなく、M&A契約に対する修正のレベル感も検討事項に含めることが理由です。
そのため、オークション方式の場合に買主側が、売主側が作成したドラフトを買主に一方的に有利に修正すると、不利になることもあります。
他方で、オークション方式以外の場合は、売主・買主のいずれがM&A契約をドラフトするかは売主・買主のコミュニケーションの中で決まることが一般的です。
近年多い流れとしては、買主側ではデュー・ディリジェンスの段階から弁護士などの専門家に相談しているものの、売主側には仲介会社しか付いていないため、買主側がドラフトを行うというものです。売主としては、このような場合はスタートラインの段階で買主に有利な契約となっていることを理解した上で、弁護士への相談の要否を検討する必要があります。
あるいは、M&A契約のドラフトについては売主側で行うことをプロセスの初期から買主候補に伝達しておくこともあり得ます。
M&A契約の内容を適切に確認していなかったため、M&Aの実行後にトラブルとなってしまうケースは近年増えておりますので、ご注意ください。
3. まとめ
本コラムでは、M&A契約のドラフトの流れについての考え方を、M&A契約における交渉事項の概要と併せて紹介させていただきました。
M&Aは多くの経営者にとって一生に一度きりの取引ですので、対価のみでなく、M&A契約の内容も考慮して、M&Aを行うかどうかを検討する必要があります。
当事務所では、M&Aを熟知した弁護士が、M&A契約のドラフト、買主との契約交渉を含め、M&Aのプロセス全体をサポートしておりますので、M&A契約の内容などでお悩みの際は、こちらのお問い合わせフォームよりご連絡をいただけますと幸いです。
※本コラムの内容は、一般的な情報提供であり、具体的なアドバイスではありません。お問い合わせ等ございましたら、当事務所までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願いいたします。