弁護士コラム

弁護士コラム「自宅を残した廃業手続の進め方」が掲載されました。

2025.04.23

昨今では会社の業績に問題がないにもかかわらず、人材不足やインフレの影響などを考慮し、以前よりも早いタイミングで廃業の検討を始められる方が増えております。

会社の「廃業」には様々なパターンがありますが、資金繰りがショートしそうになってから廃業の検討を始めるよりも、それ以前のタイミングから検討を始めておく方が「廃業」の中での選択肢が広がるという意味においては、望ましい傾向とも言えます。

他方で、廃業を検討している経営者の多くが、「廃業すると自宅を手放さなければいけないのか?」という疑問を抱かれるかと思います。

以前とは異なり、現在では経営者の自宅を残しつつ廃業手続を進めるための手法が存在しますので、本コラムでは自宅を残した廃業手続の進め方について、ポイントを解説させていただきます。

 

1. 経営者の自宅を残すための条件

会社を廃業する際、常に自宅を残せるわけではありません。最も分かりやすい例ですと、会社が破産し、経営者も破産する場合には、裁判所から選任された破産管財人が経営者の自宅を売却することになりますので、親族が破産管財人から自宅を買い取り、経営者が親族から借りるといった例外的なケースを除き、自宅を残すことはできません。

しかしながら以下の条件を満たす場合には、経営者の自宅を残すことが可能です。

 

まず、経営者保証に関するガイドライン(以下「経営者保証ガイドライン」といいます。)を利用することです。経営者保証ガイドラインは経営者の債務整理に関する手続などを定めており、法律ではないため法的拘束力はないものの、それなりに実効性があり、中小企業の債務整理の局面で活用されています。

 経営者保証ガイドラインを利用することを前提に、経営者の自宅の価値、住宅ローン債務の残高に応じて自宅を残すための条件が異なりますので、以下では場合分けして解説させていただきます。

 

2. 自宅がいわゆるオーバーローンの状態

オーバーローンとは、①住宅ローン債務の残高と②自宅の価値を比較した際に、①住宅ローン債務の残高の方が大きい状態のことです。

オーバーローンの状態にあると、経営者の自宅は債権者にとって価値がないものとなりますので、引き続き住宅ローンを支払うことで自宅を残すことが可能となります。

 

3. 自宅がいわゆるアンダーローンの状態、あるいは無担保の場合

アンダーローンは上記2.のオーバーローンとは逆の状態のことで、①住宅ローン債務の残高と②自宅の価値を比較した際に、②自宅の価値の方が大きい状態のことです。

また、無担保の場合とは自宅に担保権が設定されていない状態のことです。

これらの場合は自宅に価値があることになりますので、一見するとこちらの方が良いと思われるかもしれませんが、経営者保証ガイドラインを利用した債務整理の局面では、アンダーローンの場合や無担保の場合の方が、自宅を残すための条件が厳しくなります。

 

まず、経営者の自宅が「華美でない」ことが必要となります。

「華美でない」というのは抽象的な判断基準で、周辺の相場や同居者の人数など、様々の要素を考慮して「華美でない自宅」に該当するかどうかを判断することになりますが、この条件を満たさないケースは稀ですので、以下ではひとまず自宅が「華美でない」ことを前提に話を進めたいと思います。

 

次に、(1)現時点で廃業手続を行うことにより、将来廃業した場合よりも債権者の弁済額が増えること(回収見込額の増加)と、(2)自宅の価値が、(1)の回収見込額の増加の枠内に収まっていることが条件となります。例えば、上記(1)の回収見込額の増加額が2000万円の場合、上記(2)の自宅の価値が2000万円未満であれば、自宅を残すことが可能となります。

上記の例は詳しい説明を省略しておりますが、実務上は回収見込額の増加額をどのように算出するか、また自宅の価値の算定方法が大きなポイントとなっており、会社をどのように廃業するかに応じて回収見込額の増加額の算定方法も異なります。

 

4. まとめ

本コラムでは、自宅を残した廃業手続の進め方について、ポイントを解説させていただきました。

M&A・事業承継の検討から廃業に舵を切られた際、経営者にとっては自宅を残せるかどうかが大きなポイントになるかと思われます。

当事務所では会社の廃業、経営者保証ガイドラインを利用した債務整理を数多く手掛けております。

廃業したいが自宅を残せるかどうかでお悩みの際は、こちらのお問い合わせフォームよりご連絡をいただけますと幸いです。

 

※本コラムの内容は、一般的な情報提供であり、具体的なアドバイスではありません。お問い合わせ等ございましたら、当事務所までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願いいたします。

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