M&AプラットフォームとはM&Aマッチングサイトとも呼ばれるもので、M&Aプラットフォームの運営会社が作成したウェブサイトに売主が自社の売却に関する情報を掲載し、その情報を見た買主が買収を希望する場合、ウェブサイト上、あるいはメールなどで売主と買主が直接やり取りを行い、M&Aを成立させるものです。
M&Aプラットフォームは、当初は中小企業の後継者不足の問題への解決策として登場したものですが、今では個人事業主(ネイルサロンや整体など)のM&Aなど、アドバイザーへの費用を支払うことが難しい、小規模なM&Aのためにも利用されています。
M&Aプラットフォームは、コストがかからず、仕組みがシンプルで使いやすいというメリットもありますが、アドバイザーが関与せずにM&Aが行われることでのリスクもあります。当事務所にも、M&Aプラットフォームを利用した売主・買主から、M&Aの実行後にトラブルとなったという相談が寄せられております。
そこで本コラムでは、M&Aプラットフォームを利用する際の注意点について解説させていただきます。
1. M&Aプラットフォームにおける典型的なトラブル
M&Aプラットフォームを利用してM&Aを行われた売主・買主が直面する典型的なトラブルとしては、以下のようなものがあります。
・M&Aプラットフォームに掲載されていた情報と実際の会社の業績が異なる
・電話・メールなどで約束した内容が守られない
・M&Aの実行後、相手方と連絡が付かなくなる
なぜこのようなトラブルが生じるのか、背景を分析すると、1点目は買主がM&Aプラットフォームに掲載された情報が真実だと考え、デュー・ディリジェンスを実施することなくM&Aを実行してしまうことにあると思われます。
デュー・ディリジェンスを実施せずにM&Aを実行するということは、通常のM&Aでは考えられませんが、M&Aプラットフォームを利用するような規模が小さいM&Aではアドバイザーを起用する費用を捻出できず、このような事態が生じることがあります。
2点目については、M&Aの契約内容の不備ということが想定されます。M&Aプラットフォームでは、M&Aのスキームに応じた契約のフォーマットのようなものが利用できるものの、そこには一般的な内容しか記載されていません。しかしながら、M&Aにおいては売主・買主の双方に「こうしてほしい」という希望があるのが通常で、それを契約に反映させる必要があります。本来であれば契約のレビュー・修正だけでも弁護士のアドバイスを受けるべきですが、そのための費用がない、あるいは「簡単なM&Aだから」と考えて、弁護士を起用することなく契約を締結してしまうと、自らが希望した内容が契約に反映されていないことに気付かないまま、M&Aを実行してしまう可能性があります。
3点目は、M&Aプラットフォームを利用すると売主・買主が直接会うことなくM&Aの実行に至ることが可能であることが背景にあると思われます。次の項目で改めて記載しますが、M&Aプラットフォームを利用した情報商材詐欺が行われており、被害者(買主)が詐欺であることを認識し、売主に対してM&Aを解除したいと連絡すると、売主と連絡が付かなくなるというケースが確認されています。
2. M&Aプラットフォームを利用した詐欺
昨今では悪質な買主によるM&Aが報道等で取り上げられていますが、M&Aプラットフォームを利用した詐欺においては、悪質な売主の存在が問題となります。
当事務所に相談があった事例としては、いわゆる情報詐欺のケースです。具体的には、「投資プログラムを利用したビジネスの譲渡」という内容でM&Aプラットフォームに情報が掲載され、それを見た買主が事業譲渡という形で「投資プログラム」なるものを譲り受けるものの、そもそもビジネスとしての実態が無いため、売主に対して譲渡対価を支払っても、買主は何も得るものがない、というものになります。当事務所では、売主の名字が同じ事案について、複数回相談を受けております。
詐欺となると、悪意をもって金銭を詐取しようとする人物が存在することになりますので、これはM&Aプラットフォームに固有の問題点ではありませんが、アドバイザーが不在の中でM&Aを行うことにはこのようなリスクが伴うことにご留意ください。
3. トラブルに巻き込まれないための対応策
M&Aプラットフォームを利用したM&Aの件数は今後も増えていくと思われますが、トラブルに巻き込まれないためのポイントをいくつか紹介させていただきます。
まず、M&Aプラットフォームに掲載された情報を鵜吞みにするのではなく、実際の書類を確認することです。会社・個人事業主の業績であれば、税務申告書を最低でも過去3期分は確認されることをお勧めいたします。
また、M&A契約の締結前に弁護士に確認を依頼することで、自らの希望が反映されていないといった事態を回避することが可能です。
加えて、相手方の本人確認も重要です。売主・買主の免許証などを確認し、M&Aの対象が株式であれば、株主名簿に記載された氏名・住所と一致しているか、個人事業主とのM&Aであれば相手方が本人であるかを確認すべきです。もし相手方が本人確認を拒否するのであれば、拒否する理由を質問し、その回答に納得できないのであればM&Aを見送った方がよいと思われます。
4. まとめ
本コラムでは、M&Aプラットフォームを利用する際の注意点について解説させていただきました。
M&Aプラットフォームにはメリットもありますが、M&Aを「自己責任」で行うという意味において、相応のリスクを伴うものです。
M&Aは決して簡単な取引ではなく、専門的な知識が必要なものですので、必要に応じて専門家に相談されることをお勧めいたします。
※本コラムの内容は、一般的な情報提供であり、具体的なアドバイスではありません。お問い合わせ等ございましたら、当事務所までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願いいたします。