弁護士コラム

弁護士コラム「デュー・ディリジェンスを行わないM&A・事業承継のリスク」が掲載されました。

2026.02.18

企業間のM&Aに加え、事業承継を目的としたM&A(いわゆる第三者承継)の件数は、この10年間で飛躍的に増大し、この数年はM&Aの件数が毎年更新されている状況です。

多くの経営者にとってM&Aが身近な存在になったことで、後継者が不在であった企業の従業員の雇用が守られるといったメリットもありますが、その反面、M&A・事業承継に関するトラブルが後を絶ちません。

M&Aは専門かつ高度な取引であり、弁護士・公認会計士・税理士といった専門家のサポートが必要なものですが、近年では専門家が一切関与せず、当事者が自らの判断のみでM&A・事業承継を進めてしまうことも珍しくありません。何も問題が起きなければそれでも良いのですが、M&A・事業承継の実行後、あるいは実行の直前になって「話が違う」となってしまうとなり、トラブルへと発展するケースが増えています。もちろん、トラブルの多くは専門家の適切な助言により回避することが可能であり、トラブルが起きる可能性だけでM&A・事業承継を行わない方がいいということではありません。

当ウェブサイトでもこれまでに何度かM&A・事業承継に関するトラブルについて紹介させていただきましたが、本コラムでは、デュー・ディリジェンス(以下「DD」といいます。)を実施しないM&A・事業承継のリスクについて、当職の考え方を紹介させていただきます。

 

1. DDを行わない背景・理由について

そもそも弁護士・公認会計士・税理士といった専門家が一切関与しない案件では、M&A・事業承継の実行に先立ち、DDを一切実施しない、あるいは買主自らがDDを行うということになりますが、DDは各分野の専門家が専門的な知見を駆使して行うものですので、買主自らがDDを行うことで、専門家によるDDに代替することはほぼないと思われます。

他方で、M&A・事業承継の件数が増加するにつれ、譲渡対価が低廉である、あるいは対象会社の規模が極めて小さいことなどから、買主が「わざわざ専門家を入れてDDをするほどでもない」と考えてしまうケースが生じていることも事実です。

また、過去に当職に相談があったケースでは、仲介会社より「売主の希望するスケジュール上、DDは実施できない」と言われた結果、買主がDDを断念したというものもありました。

DDを行わない背景・理由については、上記のように必ずしも当事者の判断のみではないようですが、いずれにせよDDを実施することなく最終契約の交渉に進んでしまうと、以下で述べるようなリスクが生じることとなります。

 

2. DDを行わないことによるリスク

説明の順序が通常とは逆になりますが、MA・事業承継の実行に先立ちDDを行う目的は、対象会社に潜む問題を確認し、確認された問題の重要度を踏まえ、①当該問題の重要度が極めて高く、M&A・事業承継を進めることが困難となる場合には、当該案件の検討を中止する、②当該問題が最終契約の内容によって対処可能なものであれば、最終契約において必要なアレンジを行う、というものです。

一例として、対象会社が主要な取引先との間でトラブルを起こしており、近い将来に当該取引先との契約が打ち切られてしまうような問題があるとします。

この問題がDDにおいて検出された場合、財務の観点(担当する専門家:公認会計士)からは当該取引先との契約が終了することによる業績への影響を分析し、法務の観点(担当する専門家:弁護士)からは当該取引先との契約が終了した場合に備えた最終契約の内容(代表的なものとして、売主への補償請求)を分析することになります。

専門家による分析の結果、仮に当該取引先との契約が終了すると対象会社の事業が継続できないという場合には、当該案件の検討を中止するという選択がなされることになるでしょうし、もしそこまで大きな影響がないとしても、最終契約において買主が必要な措置を講じられるようにしておく必要があります。

 

では、DDを行わず、上述した問題がM&A・事業承継の実行後に発覚した場合はどうなるでしょうか。

ここで注意しなければならないのは、一般的なM&A・事業承継の最終契約では、最終契約が解除できるのはM&A・事業承継の実行までと規定されているため、実行後は売主の表明保証違反・義務違反を理由に解除ができないことです。例えば仲介会社が最終契約を用意する場合、ほぼ全てこのような内容になっていると思われます。

なお、M&A・事業承継の実行後の解除については、下記のコラムで紹介しておりますのでご参照ください。

弁護士コラム「M&A・事業承継の実行後の契約の解除」https://yps-law.jp/column/1543/

 

これを前提とすると、もしM&A・事業承継の実行後に主要な取引先との契約が終了したとしても、契約を解除してM&A・事業承継を無かったことにすることはできず、最終契約の内容に応じて、表明保証違反・義務違反を理由に売主に対して補償請求をするしかない、ということになります。

そして補償請求をする場合は買主において売主の義務違反などを主張・立証する必要があり、そもそも買主の立場としては、そのような状況を知っていればそもそもM&A・事業承継を実行しなかったというケースも少なからず見られます。

必ずしもDDを行わない場合に限りませんが、金銭的な補償では十分でなく、かと言って契約を解除することもできないという事態に陥る可能性があることに十分ご注意ください。

 

3. DDを行わない代わりに最終契約の内容を手厚くすることの問題点

以前、「DDは実施しないが、その代わりに最終契約の内容を買主に有利にすれば、リスクはないか」というご質問をいただいたことがあります。

個人的な考えとしては、上記のご質問に対する回答としては「それによって完全にリスクを排除することはできない」というものとなります。

 

仮に最終契約の内容を買主にとって有利な内容とし、M&A・事業承継の実行後に生じた問題についても、表明保証違反や売主の義務違反を理由とした補償請求が契約上は可能だとしましょう。

この場合、売主が対象会社あるいは買主に生じた損害に相当する金銭を速やかに支払ってくれればよいですが、損害の額が大きい場合や、そもそも損害の額が一義的に決まらない場合には、売主が補償請求に応じてくれるかは不透明となります。

また上記2.に記載した例のように、「当該取引先との契約が終了すると対象会社の事業が継続できない」といったケースでは、補償請求が可能だとしても、M&A・事業承継を実行した目的が達成できませんので、最終契約においてM&A・事業承継の実行後も契約を解除できるようなアレンジが必要となります。ただし、MA・事業承継の実行後に契約を解除するとなるとかなりの混乱が生じる可能性があり、この点も踏まえると最終契約のみでリスクを完全に排除することはできないと考えざるを得ないと思われます。

 

4. まとめ

本コラムでは、DDを実施しないM&A・事業承継のリスクについて、当職の考え方を紹介させていただきました。

会社の規模にかかわらずM&Aを手段として活用できる時代となり、それ自体は良いことではありますが、本来的なM&Aのプロセスを軽視することはリスクが顕在化する可能性を高めてしまいます。

どのような取引についても同じことが言えますが、予めリスクを把握し、当該リスクの分析を行ってはじめて、当該取引を実行するか否かの決断が可能となります。そしてM&Aという取引においては、DDがリスク分析の第一歩です。

当事務所では法務DDの対応や、残念ながらMA・事業承継の実行に紛争・トラブルとなったケースを含め、M&A全般についてアドバイスを差し上げておりますので、M&Aに関するトラブルでお悩みの場合、以下のお問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。

 

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