弁護士コラム

弁護士コラム「表明保証保険(W&I保険)の活用」が掲載されました。

2026.06.30

M&Aのプロセスが進むにつれ、買主はM&Aの実行後に対象会社に潜むリスクが顕在化しないかを不安に感じ、売主はM&Aの実行後に多額の補償責任を負わないかを不安に感じるようになります。

このような買主・売主に共通する不安をある程度軽減するための仕組みとして、近年、表明保証保険(W&I保険)が注目されています。

表明保証保険は、従来は大型のM&Aを中心に利用されてきたものですが、2020年以降、国内のM&Aにおいても利用される環境が整い、中小企業を対象とするM&Aにおいても活用の余地が広がっています。

以前のコラム「売主の表明保証違反への対応」でも触れたとおり、表明及び保証(以下「表明保証」といいます。)の違反は、M&Aに伴う典型的なリスクの一つです。そこで本コラムでは、このリスクに備える手段の一つである表明保証保険について、国内における活用状況も含めて解説させていただきます。

 

1. 表明保証保険(W&I保険)とは

表明保証保険(Warranty and Indemnity Insurance。以下「W&I保険」といいます。)とは、M&A契約における売主の表明保証に違反があった場合に、これによって生じた損害を填補する保険です。

W&I保険には、買主が契約当事者となる「買主用保険」と、売主が契約当事者となる「売主用保険」の2種類がありますが、実務上は買主用保険が利用されることが多いと思われます。

買主用保険の場合、売主の表明保証違反により買主に損害が生じたときに、買主は、売主に対して補償請求を行うのではなく、保険会社に対して保険金を請求することになります。これにより買主は、売主の資力にかかわらず、また売主との関係を悪化させることなく、生じた損害につき填補を受けることが可能となります。

 

2. 表明保証保険の活用状況

W&I保険は、もともとは海外のM&A案件で広く利用されてきた保険であり、国内企業が関与する場面でも、従来はクロスボーダー案件(国内企業が海外企業を買収する取引等)での利用が中心でした。

これは、従来の表明保証保険が英文約款を前提とし、引受審査や保険証券の発行も英語で行われるのが一般的であったため、最終契約やデュー・ディリジェンスの報告書が日本語で作成される国内企業同士のM&Aには利用しにくかったことによります。

もっともこうした状況は、2020年以降、大きく変化しています。

2020年1月に、国内の損害保険会社として初めて、東京海上日動火災保険が、引受審査・保険証券の発行を日本語で行う国内M&A向けの表明保証保険の販売を開始しました。その後、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険が相次いで国内向け商品の取扱いを開始し、国内のM&Aにおいても表明保証保険を選択肢として検討できる環境が整いつつあります。

さらに近年では、中小企業のM&Aを念頭に置いた商品も登場しています。

従来の表明保証保険は最低保険料が1,000万円程度とされ、小規模なM&Aでは費用対効果の観点から利用が難しい状況でしたが、補償内容を定型化するなどして最低保険料を数十万円程度まで引き下げ、支払限度額も1,000万円程度から設定できる商品が販売されています。これらの商品は、中小企業の事業承継を支援することを一つの目的として掲げており、M&A仲介会社やM&Aプラットフォームと連携したサービスも提供されています。中小企業の事業承継や大企業によるカーブアウト(一部事業の切り出し)、投資ファンドによる買収など、国内M&Aにおける活用の場面は広がりを見せています。

 

3. W&I保険が注目される背景

上記1.でも触れたように、W&I保険が注目される理由は、買主・売主の双方にメリットがある点にあります。

売主の側からみると、M&Aの実行後に表明保証違反に基づく補償責任を負うリスクを保険でカバーできるため、譲渡対価の一部をエスクロー(譲渡対価の一部を一定期間留保しておく仕組み)として留保する必要がなくなり、譲渡対価を早期に受領しやすくなります。

また、M&Aの実行後の責任を遮断し、いわゆる「クリーン・イグジット」を実現しやすくなります。そのため、いわゆる事業承継型M&Aのように、経営者がM&Aの実行を機に経営からリタイアするような場合に、W&I保険は特に有用です。

 

また、買主の側からみても、売主が個人であり、譲渡対価を受領した後は資力が乏しくなるようなケースであっても、保険会社という確実な補償の引受先を確保できるという利点があります。

さらに、売主が表明保証の範囲を限定したいと考え、買主が網羅的な表明保証を求めるという両者の対立を、保険を利用することで緩和できるケースもあります。

 

4. W&I保険を利用する際の注意点

このようにW&I保険は有利な保険ではあるものの、利用にあたってはいくつか注意すべきポイントがあります。

第一に、デュー・ディリジェンス(DD)で既に判明している問題や、当事者が認識している事項は、原則として保険の対象外となります。これは、W&I保険はあくまで「未知のリスク」に備えるための保険であることが理由となります。

第二に、保険会社による引受けにあたっては、適切なDDが実施されていることが前提となります。適切なDDが行われていない場合には、そもそもWI保険の引受けを受けられない、あるいは補償の範囲が限定されるおそれがあります。

第三に、保険である以上、保険料の負担が生じるほか、免責額(一定額までは保険金が支払われないとする金額)や保険金額の上限、保険期間といった条件が設定されます。また、土壌汚染に関する責任や、ある程度問題が判明している税務リスク、特定の係争事項など、案件の内容によっては保険の対象から除外される事項もあります。

 

なお、W&I保険に関する保険会社の引受審査には一定の時間を要するため、M&Aのスケジュールに影響がある点にも留意が必要です。

 

5. まとめ

本コラムでは、表明保証違反のリスクに備える手段の一つである表明保証保険(W&I保険)について、その概要を紹介させていただきました。

W&I保険は、売主のクリーン・イグジットと、買主の補償請求の実効性の確保を両立させ得る有用な仕組みであり、現在では中小企業を対象としたM&Aでも利用しやすい環境が整いつつあります。もっとも、WI保険の対象や条件には一定の限界があるため、検討中の案件においてWI保険を利用すべきかどうかは、DDの状況や保険料の負担なども踏まえて、個別に検討する必要があります。

当事務所では、大手法律事務所及び証券会社において多数のM&Aをサポートした経験を有する弁護士が、W&I保険の活用を含め、買主・売主の双方の立場からM&A・事業承継をサポートさせていただきます。

初回相談は無料で承っておりますので、M&A・事業承継でお悩みの際は、こちらのお問い合わせフォームよりご連絡をいただけますと幸いです。

 

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