弁護士コラム

弁護士コラム「信託を利用した事業承継①」が掲載されました。

2020.06.10

これまで、親族内での事業承継を行う際には、生前贈与や遺言により後継者に株式を承継させることが一般的でしたが、近年では信託を利用した事業承継が注目されています。

 

それでは、信託を利用した事業承継とはどういったものなのでしょうか。

 

 

 

1. 信託とは

信託の当事者となるのは委託者・受託者・受益者です。事業承継の場面では、経営者が委託者、信頼できる第三者または信託銀行が受託者となることが多いと思われます。そして受益者となるのは、後継者または経営者自身です。

信託を用いた事業承継の典型例としては、経営者の皆様が保有する株式を信託財産として受託者に移転し、受託者は受益者のために当該株式を管理・処分するというものが挙げられますが、その他にもニーズに応じて様々な信託を設定することが可能です。

 

2. 信託を用いた事業承継

信託を用いた事業承継には様々なスキームのものがありますが、本コラムでは比較的シンプルなものとして、以下のような状況で信託を利用するケースを紹介させていただきます。

経営者のご子息が後継者となる予定であり、後継者にはなるべく早く経営に専念してほしい。
もっとも、経営者が存命中の間は経営者の意向に沿って会社を経営してほしい。
後継者が配当を受領することは問題ない。

 

このケースで事業承継を成功させるためには、①後継者が将来的に株式を取得することについての期待を高めておくこと、②ただし経営者の存命中は、経営者の意向に沿った議決権が行使されるようにしておくこと、がポイントとなります。

そこで、下図のような信託を利用することが考えられます。

No.7 信託を利用した事業承継①_図

なお、経営者が保有する議決権行使の指図権については、経営者の相続時に後継者が取得することも可能ですが、信託の終了事由の1つに委託者の死亡を定めておくことで、経営者に相続が発生した場合には後継者が株式そのものを取得し、自由に議決権を行使できるようなアレンジも可能です。

 

3. 信託を利用するメリット

後継者を経営に関与させる上では、生前贈与により経営者が保有する株式を後継者に承継させることも可能です。もっとも生前贈与を利用した場合、後継者が議決権を行使することになるため、仮に後継者が経営者の意思に沿わない会社経営を行ったような場合でも、後継者の取締役の地位を解任することができないといったリスクもあります。

他方で、上図の信託を利用した場合には、後継者が信託財産である株式から生じる利益(配当等)を享受しつつ、当該株式についての議決権については委託者である経営者の意向に沿って行使させることが可能となります。

長年にわたって事業を行ってきた経営者の皆様にとっては、会社の株式を手放すことには大なり小なり抵抗があるかと思いますが、後継者の方も「本当に自分が後継者となれるのか?」という疑問を抱いている場合が多いのではないでしょうか。信託は、このような経営者と後継者の悩みを解決し得るため、近年では事業承継の手法の1つとして利用されることが増えております。

 

4. まとめ

本コラムでは信託を利用した事業承継のうち、シンプルなスキームのものを解説させていただきましたが、信託は目的に応じて柔軟に内容を設定することが可能です。

もっとも信託は制度そのものが複雑であり、また信託を利用した場合の課税関係や後継者以外の相続人の遺留分には注意する必要がありますので、事前に専門家に相談されることをお勧めしております。

当事務所では税理士とも連携して依頼者をサポートさせていただいておりますので、事業承継を行う上で信託の利用を検討されている方は、一度当事務所までご相談ください。

 

※本コラムの内容は、一般的な情報提供であり、具体的なアドバイスではありません。お問い合わせ等ございましたら、当事務所までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願いいたします。

 

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