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フィナンシャル・アドバイザー(FA)業務と仲介会社の利益相反について

2026.07.02

当事務所の弁護士 八木啓介は、野村證券株式会社の企業情報部においてフィナンシャル・アドバイザー(FA)として勤務した経験を有しており、現在も中小企業の経営者がM&Aに取り組まれる際に、弁護士としての法的アドバイスのみでなく、FA業務も行っております。なお八木弁護士は、野村證券企業情報部では素材・エネルギーセクターに所属し、石油・鉄鋼などを扱う上場企業のM&Aを主にサポートしておりました。

FA業務を行っていますと、「M&A仲介会社との違いは何ですか?」というご質問をいただくことがあります。FAと仲介会社の業務内容は類似している部分もあり、はじめてM&Aを経験する方にとっては違いが分からないのは当然のことと思われます。

もっとも、売主・買主のいずれか一方のアドバイザーであるFAと、売主・買主の双方に対して業務を行うM&A仲介会社の間には、「利益相反」の有無という大きな違いが存在します。数年前にある国会議員よりM&A仲介会社の利益相反につき問題提起がなされたことがありますが、その背景には「M&A仲介会社にとってリピーター顧客である買主の利益を、売主の利益より優先するような事案が見受けられる」といった問題意識が存在します。実際にも、あるM&A仲介会社が悪意を持った買主を売主とマッチングさせていたことが公になり、これは「悪質M&A」と呼ばれ、社会問題となりました。

もっとも、M&A仲介会社の利益相反については、FAとして勤務した経験を踏まえて申し上げると、特定の悪質なM&A仲介会社だけの問題ではなく、仲介方式を採る限り必ず向き合わなければならない問題です。

そこで本コラムでは、利益相反が具体的にどのような場面で発生するのかを、M&Aのプロセスに沿って解説させていただきます。

1. 「仲介」と「FA」の違い

議論の整理のため、用語の解説から始めたいと思います。

  • 仲介(いわゆる「両手」):一つの業者が売主と買主の双方と契約し、双方から手数料を受け取る方式。日本の中小企業M&Aで主流。
  • FA:売主または買主の一方のみと契約し、その依頼者の利益最大化のために助言する方式。上場会社のM&Aや証券会社の関与案件で一般的。

 

不動産取引における仲介を想像していただくと分かりやすいかと思います。売主は「1円でも高く」、買主は「1円でも安く」買いたい。この正面から対立する利害の両方から報酬を受け取るのが仲介方式です。中小企業庁が公表している「中小M&Aガイドライン」においても、仲介方式にはこの構造的な利益相反リスクがあることは明記されており、M&A仲介会社に対して利益相反のおそれのある事項の説明義務を課しています。

なお、仲介方式自体が違法というわけではありません。売主・買主双方が合意できるポイントを探るマッチング機能には固有の価値があり、案件規模によっては合理的な選択でもあります。問題は、利益相反が発生しやすい局面を依頼者が知らないままプロセスが進むことです。

2. 利益相反が発生する5つの局面

局面1:譲渡価格と手数料の関係——仲介の利益は「高く売ること」ではなく「成約」にある

仲介会社の報酬は成功報酬(レーマン方式等)が中心です。ここで重要なのは、手数料率の構造上、譲渡価格が多少下がっても、仲介会社の手取りはさほど減らないという点です。

たとえば譲渡価格が3億円のケースと2.5億円のケースでは、一般的なレーマン方式(5%区分)での手数料差はわずか250万円程度です。

他方で案件が破談になれば手数料はゼロです。

その結果、仲介会社には「高く売ること」ではなく「成約させること」に重点を置く動機が生じます。当職が売主にアドバイスをする中で、仲介会社から「この価格で決めないと案件がブレイクする」「契約条件が厳しすぎる、これでは買主が応じない」と説得されているという話をよく伺いますが、このような説得が誰の利益のために行われているかについては、常に吟味が必要です。

局面2:買主候補の選定——「早く決まる買い手」が優先されるリスク

売主にとっての理想は、複数の買主候補を競わせて条件を引き上げること(いわゆるオークション方式)です。しかし仲介会社にとって、複数候補との並行交渉は、手間がかかるうえ破談となるリスクが高まる可能性があります。結果として、仲介会社と付き合いの深い、スムーズに話が進む買主に一本化する誘因が働きます。

特に注意すべきは、仲介会社が同一の買主(継続的に買収を行っているファンドや事業会社)に案件を繰り返し持ち込んでいるケースです。仲介会社にとってその買主は「リピーター顧客」であり、一見売主のための行動に見えても、実質的な力学は買主側に傾きがちであることは否めません。

 

局面3:契約条件の交渉——表明保証・経営者保証・退職慰労金などの経済条件

M&Aの条件は譲渡価格だけではありません。表明保証の範囲、補償の上限・下限・期間、役員退職慰労金、経営者保証の解除、譲渡代金の分割払いの有無などは、経済的価値を持つ重要な取引条件です。

しかしながら、契約条件の交渉については、そもそも弁護士の業務であり仲介会社の業務ではなく、かつ仲介会社は売主・買主双方から手数料を得ているため、どちらかに有利な条項となるよう主導する立場にもありません。

そのため、「譲渡価格は希望どおりだったが、広範な表明保証を負わされ、後日買い手から損害賠償請求を受けた」というトラブルが生じます。当事務所へのご相談でも、トラブルの原因が価格にあるケースは少なく、契約条件が一方的に買主に有利になっていたことが原因であることが多いです。

 

局面4:リスク情報の非対称性——都合の悪い情報の隠匿リスク

仲介会社は双方の情報を握る立場にあります。買主の資力不安、過去のトラブル歴、買収後の従業員の処遇の実態など、売主が知ればその買主との交渉をやめてしまうような情報を、仲介会社が積極的に売主に開示する誘因は乏しいと言えます。

逆もまた然りで、売主・対象会社に関する問題を買主に伏せてプロセスを進めてしまうと、成約後に表明保証違反として売主が責任追及されるリスクを負うことになりますが、その時点では仲介会社の業務は終了していることが通常です。

一方、FAにおいては依頼者(売主・買主のいずれか)への忠実義務が明確に存在するため、他方当事者に関する不利な情報も含めて依頼者に報告し、その上で方針を策定することが可能です。

 

局面5:最終契約のドラフト——「中立」な契約、「ひな形」は存在しない

M&Aのプロセスが進むと、仲介会社が最終契約の「ひな形」を作成することがよく見られます。

仲介会社が作成する「ひな形」は「中立的」に見えますが、基本的にリスク配分が完全に中立ということはありません。

表明保証をどこまで規定するか、特別補償の対象となる事項はあるか、補償期間を長くするか短くするか、サンドバッギング条項を入れるか否かなど、すべてどちらかに有利な選択です。

売主・買主の双方から手数料を得る仲介会社は、この選択についてどちらに与することもできません。だからこそ、最終契約のレビューだけでも当事者それぞれが自らが選任した弁護士に依頼する意味があります。

なお、仲介会社が自社の社内弁護士や提携している弁護士への依頼を斡旋するケースもよくありますが、紹介された弁護士を信頼するか否かは、ご自身で判断する必要があります。

 

3. M&A仲介に関する制度改革

上述したM&A仲介に関する利益相反等の問題意識から、M&A仲介に対する規制は、近年大きく動いています。

例えば中小M&Aガイドラインは2020年以降、複数回の改訂が行われており、仲介会社の利益相反に関する説明義務、テール条項(契約終了後も一定期間は手数料の支払義務が残存する旨の条項)における期間・対象の限定、直接交渉の制限に関するルール等が具体化されています。

また、M&A支援機関登録制度では、ガイドライン遵守を宣言した業者が登録され、問題のある業者への登録取消処分も実際に行われるようになりました。

「吸血型M&A」、すなわち悪質な買い手による買収後の対象会社の資金流出(結果として、対象会社が破産する)などのトラブルも報道され、M&A仲介会社の紹介責任が問われる局面も出てきています。

しかしながら、これらはあくまで行政上の規制枠組みですので、個別のM&Aに関する契約交渉や、プロセスの進め方に関する自衛は、M&Aの当事者自身が行うほかありません。

 

4. まとめ

FAとしてM&Aをサポートした経験に基づき、M&A仲介会社の利益相反に関する問題について述べてきましたが、誤解のないように申し添えると、本コラムはM&Aにおいて仲介会社の利用を否定するものではありません。

優れた仲介会社は買主候補の発掘力において大きな価値を提供します。重要なのは、仲介会社は「あなたの代理人」ではないという構造を理解したうえで、ご自身の利益だけを守る専門家を別に確保することです。

当事務所では、野村證券株式会社においてFAとして勤務した経験を持つ弁護士が、仲介会社が関与する案件のセカンドオピニオン、仲介契約や株式譲渡契約のレビュー、契約交渉の支援を行っています。

「仲介会社に任せているが、この条件でよいのか不安がある」という段階でのご相談も歓迎しますので、こちらのお問い合わせフォームよりご連絡をいただけますと幸いです。

 

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※本コラムの内容は、一般的な情報提供であり、具体的なアドバイスではありません。お問い合わせ等ございましたら、当事務所までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願いいたします。

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