現経営者から後継者に事業承継が行われる前、または事業承継が行われた後に、後継者が新規事業を開始されることは珍しくありません。事業承継は、会社の創業としての側面がありますので、後継者が新規事業を開始することはある意味では自然なこととも言えます。
また、近年では新規事業を行うことで金融機関の融資を受けやすくなるといったメリットもありますので、当事務所でも事業承継に伴う新規事業のスタートは全面的にサポートさせていただいております。
そこで本コラムでは、事業承継のタイミングで新規事業を開始する際のポイントについて解説させていただきます。
1. 会社の経営方針の決定権の所在
事業承継のタイミングで新規事業を開始することは自然な流れとも言えますが、一方で現経営者からすれば、長年にわたって築かれてきた会社の事業が、事業承継のタイミングで変わってしまうため、抵抗感を抱かれることも少なくありません。
事業承継の目途が付いていたにもかかわらず、現経営者と後継者の経営方針の違いで事業承継が失敗してしまうことは避けなければなりません。
そのため、事業承継の実行後の会社の経営方針をどちらが持つかについて、現経営者と後継者が事前に協議の場を持ち、経営方針の決定権の所在を明確にしておく(場合によっては契約等で手当てをする)ことが必要です。
2. これから新規事業を開始する場合
それでは、後継者が新規事業を開始することを希望し、現経営者がそれに難色を示している場合にはどのような対応が考えられるのでしょうか。
新規事業をこれから開始する場合には、新規事業を行う会社を新たに設立する手法が有効です。その上で、新会社の代表取締役に後継者が就任し、従来の会社の代表取締役は引き続き現経営者が務めることにして、新会社のビジネスが軌道に乗ってきた段階で両会社を合併する、あるいは持株会社を設立する、といった形で経営を統合することが可能になります。
また、後継者が新会社のみでなく、従来の会社の代表取締役にも就任した上で、従来の会社の株式は現経営者が保有し、万が一の場合には自らが再度代表取締役に就任するといった手法も可能です。
この手法のメリットは、現経営者と後継者の希望を両立させる点にありますが、会社の資本関係がやや複雑になるというデメリットもあります。
3. 既に新規事業を開始している場合
次に、事業承継の実行後に後継者が(従来の会社で)新規事業を開始したところ、旧経営者が難色を示した場合にはどのような対応が考えられるのでしょうか。
この場合には、新規事業を会社分割・事業譲渡により別会社に承継させることで、新規事業を会社から切り離すことが一応は可能ですが、従業員の雇用や、新規事業を開始するにあたって金融機関から受けた融資をどう処理するかなどの点で、問題が残ってしまう可能性があります。
またこの問題は、現経営者と後継者の経営方針に関する考え方の違いが根底にありますので、感情的な対立が先鋭化してしまうことも少なくありません。
このような場合には、当事者のみで話し合って解決しようとするとさらに問題が複雑になる可能性もありますので、中立的な第三者も交えた協議を行うことをお勧めします。
4. まとめ
本コラムでは、事業承継のタイミングで新規事業を開始する際のポイントについて解説させていただきました。
上記のとおり、新規事業を始めること自体が問題なのではなく、現経営者・後継者の経営方針が揃っていない状態で新規事業を開始するところに問題の所在があります。
中小企業における親族内承継は、弁護士・税理士などの専門家を介することなく当事者間で進められることが多いのですが、後日の紛争を防ぐ観点からは、専門家に相談されることをお勧めいたします。
当事務所では、事業承継のご相談については初回相談を無料で承っておりますので、お気軽にご相談いただければ幸いです。
※本コラムの内容は、一般的な情報提供であり、具体的なアドバイスではありません。お問い合わせ等ございましたら、当事務所までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願いいたします。