弁護士コラム

【弁護士による解説】個人事業主の事業承継と注意点

2021.04.01

事業承継というと、株式会社をはじめとする法人の株式譲渡・事業譲渡などを想定することが多いと思われますが、個人事業主として事業を営んでいる方であっても、事業承継を行うことは可能です。なお、ここでの事業承継には親族内承継のみでなく、M&Aとしての性質を有する第三者への承継も含まれます。

近年では個人事業主による事業承継も増えておりますが、法人でないことによる制約もあるため、事業承継に際しては注意が必要となります。

本コラムでは、個人事業主の事業承継における特徴と、その注意点について解説させていただきます。

 

1. 個人事業主の事業承継の特徴

個人事業主であっても、法人と同様にオフィスの賃貸借契約を締結し、従業員を雇用し、顧客と取引を行っておりますので、純粋に経済的な観点から見ると法人と個人事業主との間に大きな違いはありません。

しかしながら事業承継の文脈においては、法人と個人事業主との間には大きな違いがあります。

まず、個人事業主には「株式」が存在しないため、株式会社の事業承継における最も一般的な手法である株式譲渡を利用することができません。

また「合併」や「会社分割」といった手法も、法人しか利用できないため、個人事業主の事業承継において利用することができません。

その結果、個人事業者の事業承継においては、商法が規定する「営業譲渡」(商法第15条)によることが一般的です。個人事業主による営業譲渡であっても、法人・個人のいずれも相手方になることができます。

なお、顧客や従業員の引継ぎを行わず、事業用資産を譲渡するのみであれば、売買契約でも事足りると思われますが、その場合でも対象事業の権利関係の処理については契約書において明確にしておく必要があります。

 

2. 営業譲渡の留意点

個人事業主の事業承継において営業譲渡が利用される経緯は上記のとおりですが、営業譲渡にはいくつかの留意点があります。

まず、単なる財産の譲渡は営業譲渡ではありません。顧客との契約、営業用の資産、負債などを一体として移転する場合に限り、商法上の「営業譲渡」に該当することになります。

この点に関連して特に注意しなければならないのは、営業譲渡を行う際には、承継する権利義務を特定しなければならないということです。特定の方法としては、契約書に権利義務を列挙することや、「一切の●●」という形で包括的に記載することなどが考えられますが、承継する権利義務の特定が不十分であると、特に負債について、事業承継の実行後にどちらが負担するかで争いとなる可能性があります。個人事業主に限らず、適切な監査を受けていない場合には潜在的な負債の存在が計算書類から読み取れないケースが珍しくないため、この点はとりわけ注意が必要になります。

また、営業譲渡で承継する権利義務について、相手方がいる場合には個別に同意を取得する必要があります。株式譲渡では会社の株主が入れ替わるのみですので、契約書において株主の変更(いわゆるChange of Control)について相手方の事前承諾を要する旨の規定がない限り、株式譲渡の実行に先立ち契約の相手方と調整する必要はありませんが、営業譲渡においては原則として調整が必要となる点で、注意が必要です。

 

3. 法人化の必要性について

当事務所では、事業承継を検討中の個人事業主の方から、「事業承継に備えて法人化しておく必要はありますか?」というご相談をいただくことがあります。

結論としては、法人化は必須ではありません。上記のとおり、営業譲渡のスキームで事業承継は行うことができますので、後継者(買主)が営業譲渡による事業承継を拒否するようなケースでなければ、事業承継のために法人化する必要はないと考えられます。

 

4. まとめ

本コラムでは、個人事業主の事業承継の特徴とその注意点のうち、特に重要なものについて解説させていただきました。

上記で解説した事項の他にも競業避止義務や損害賠償請求義務など、法人の事業承継とは異なる様々な注意点があります。

近年ではM&Aプラットフォームの発展により個人事業主の事業承継・M&Aも活発になっていますが、事業承継に伴う後日の紛争をなるべく回避するために、少しでも専門家に相談されることをお勧めいたします。

当事務所では事業承継の契約書の簡易レビューなどは10万円程度から承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。

 

※本コラムの内容は、一般的な情報提供であり、具体的なアドバイスではありません。お問い合わせ等ございましたら、当事務所までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願いいたします。

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