弁護士コラム

弁護士コラム「労務デューデリジェンスの頻出論点:未払賃金の消滅時効」が掲載されました。

2022.01.17

1. 労働法とM&A・事業承継


近年、労働者の権利保護が企業における重要な課題となっておりますが、事業承継・M&Aを検討されている経営者の皆様にとっては、従業員の未払賃金の問題が特に切り離せない問題となっています。

勤務時間の管理、時間外労働の賃金計算などに関する法律の規定は複雑で、労働法上の規律をすべて完璧に遵守している中小企業はほぼ存在しないと思われますが、経営者と労働者の距離が比較的近い中小企業では、未払賃金の問題が顕在化する場面は限定されているように感じられます。

すなわち、①従業員が転職・退職する際や、会社との間で紛争が起きた際に未払賃金の支払いを主張されるケースが見受けられるほか、②会社が事業承継・M&Aを実行する際にも従業員から未払賃金の支払いを求められる場合があります。経営者との人間関係を重んじて未払賃金の請求を控えていた従業員が、事業承継・M&Aという経営者の交代のタイミングで未払賃金の請求を行うことは心情的にはやむを得ない部分もあるものの、未払賃金の額によっては事業承継・M&Aの成否に影響を及ぼすリスクもあります。

そのような意味で未払賃金の有無が事業承継・M&Aを検討されている経営者の皆様にとって重要な問題となっているところ、民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)において、賃金請求権の消滅時効に関する労働基準法の改正が行われました。

 

2. 賃金請求権の消滅時効の概要

賃金請求権の消滅時効については労働基準法第115条において規定されているところ、上記の法律改正以前は、賃金請求権の消滅時効は2年とされていました。

そのため、M&A・事業承継の際に買主が行うデューデリジェンスにおいても、未払賃金に係るリスクは最大でも過去2年分とされていましたが、この度の法律改正により、賃金請求権の消滅時効は5年に延長されています。

 

(時効)

第百十五条 この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は二年間、この法律の規定による退職手当の請求権は五年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。

 

但し、経過措置として当分の間は賃金請求権の消滅時効は3年間とされていますので、本コラムを執筆している20221月時点では、未払賃金に係るリスクは最大過去3年分となります。

 

3. まとめ

賃金請求権の消滅時効は労務に関するデューデリジェンスにおいて頻出する問題ですが、労働関連法令は頻繁に改正がなされるため注意が必要です。

例えばリモートワークを制度とするためには就業規則をどのように修正する必要があるか、産休・育休に関する規程は整備されているのかなど、労働関連法令を完全に遵守することは、中小企業にとって非常に重い負担となります。

もっとも、M&A・事業承継の場面では、あらゆる労働関連法令を遵守していることが求められるのではなく、会社に損害が生じる可能性があるリスクを回避していることが重要となります。

当事務所では多数のデューデリジェンスを行ってきた弁護士が、買主・売主の双方の立場からデューデリジェンスをサポートしておりますので、M&A・事業承継のデューデリジェンスでお悩みの方は、ぜひ当事務所までご相談ください。

 

※本コラムの内容は、一般的な情報提供であり、具体的なアドバイスではありません。お問い合わせ等ございましたら、当事務所までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願いいたします。

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