弁護士コラム

弁護士コラム「デューディリジェンスにおいて発見された問題への対応」が掲載されました。

2023.06.19

一昔前は、デューディリジェンスという言葉そのものが一般的ではなく、またデューディリジェンスの場面で具体的に何が行われるかについてもあまり理解されておりませんでしたが、現在では実際にM&Aに関与したことなくとも、デューディリジェンスという言葉を聞いたことがある人の数は少くないと思われます。

その一方で、デューディリジェンスを行う目的については、単に「M&Aの対象となる会社に関する問題点を把握すること」と誤解されていることがあります。対象会社についての問題点を把握することはもちろん必要ですが、それだけで完結してしまってはデューディリジェンスの目的を達成することはできません。

デューディリジェンスには様々な種類がありますが、本コラムでは法務デューディリジェンスに限定し、デューディリジェンスを行う目的、またデューディリジェンスにおいて発見された問題への対応について、ご紹介させていただきます。

 

1. 法務デューディリジェンスを行う当事者とその目的

法務デューディリジェンスに限らず、デューディリジェンスというと買主だけが行うものと思われがちですが、売主が当事者となって自社のデューディリジェンスを行う、いわゆるセラーズ・デューデリジェンスが行われることも珍しくありません。

買主がデューディリジェンスを行うのは、対象会社の問題点を把握した上で、以下で述べる企業価値評価における考慮・M&A契約への反映が主な目的となりますが、売主がデューディリジェンスを行う目的は、予め自社の問題を把握し、かつ解決可能な問題(例えば、係属している訴訟について和解するなど)は解消しておくことで、買主のデューディリジェンスに備えるという点にあります。

両者は、デューディリジェンスの進め方といった実務的な部分で異なるところもありますが、譲渡価格や契約に関する交渉において自らを有利な立場に置くという意味では、買主・売主のいずれが当事者であってもデューディリジェンスを行う最終的な目的は同じとも考えられます。

 

2. 企業価値評価における考慮

法務デューディリジェンスにおいて発見された問題が、直ちにM&Aの検討を中止せざるを得ないような内容のものでなかった場合において、買主が取り得る方策の1つとして、企業価値評価における考慮があります。

典型例としては、対象会社が訴訟において被告となっており、当該訴訟で5億円を請求されていて、かつ当該訴訟については敗訴する可能性が極めて高いような場合がこれに該当します。このようなケースでは、買主による当初の対象会社の企業価値評価が50億円とすると、当該訴訟による影響を考慮し、50億円から5億円を控除した45億円を、デューディリジェンス後の企業価値評価とすることが考えられます。

なお、これはあくまで買主側における評価であり、売主がその評価をそのまま受け入れなければならないというものではありません。売主としては「判決が出る前であれば3億円で和解できる」と考えるのであれば、企業価値評価における減額要素として考慮する場合でも3億円が限度と主張し交渉することや、M&A契約において「3億円で和解した場合には譲渡対価を3億円減額する」、あるいは「3億円で和解できなかった場合には補償義務を負う」といった規定を設けることが考えられます。

但し、法務デューディリジェンスで発見される問題で、このような定量的な評価が可能なものは時間外労働に係る未払賃金などに限定されているため、通常は次に述べるM&A契約における規定で対応することになります。

 

3. M&A契約における規定

上述したとおり、株券発行会社における株券の不発行状態、36協定が未締結の状態での従業員の時間外労働、CoC条項を含む契約の取扱いなど、法務デューディリジェンスで発見される典型的な問題の多くは、M&A契約における規定により対応することが通常です。

ここで重要となるのはM&A契約における規定の具体的な内容ですが、発見された問題の性質に応じて、①前提条件、②クロージング前の誓約事項、③クロージング後の誓約事項のいずれかに分類することが必要となります。

大まかにいえば重要度の高い順に①⇒②⇒③となりますが、重要なものを全て前提条件として規定してしまうと予定どおりにクロージングできず、本末転倒となりかねませんので、特に重要なものを前提条件として規定し、重要度が高いものの解決までに時間がかかりそうなものはクロージング前・クロージング後の誓約事項として規定しつつ、一定の期間が経過するまでに解決されない場合には売主に補償義務を負わせる、といったバランス感覚が求められます。

M&A契約は、契約内容を理解すること自体はそれほど難しくはないものの、法務デューディリジェンスの結果を踏まえてどのように規定する(場合によっては意図的に規定しない)かの判断を行う上では、一定の経験が必要と言うことができます。

 

4. まとめ

本コラムでは法務デューディリジェンスの目的、また法務デューディリジェンスにおいて発見された問題への対応について、概要をご説明させていただきました。

財務デューディリジェンスとは異なり、法務デューディリジェンスにおける発見事項の多くは、対象会社の企業価値評価に直接的に影響するものではないので、M&Aの当事者において財務デューディリジェンスほど重視されていないことは珍しくありません。

また、M&Aの実行に先立ち法務デューディリジェンスを必ず行わなければならないというルールがあるわけでもないので、最終的にはM&Aの当事者の判断とはなりますが、少なくともデューディリジェンスを行ったことが、デューディリジェンスを行わないことよりも不利に働くことはありません。

譲渡価格や契約に関する交渉を有利に進める上で、デューディリジェンスは有力な1つの手段となりますので、M&Aの規模に関わらず、限定的な範囲でもデューディリジェンスを行うことをお勧めいたします。

 

※本コラムの内容は、一般的な情報提供であり、具体的なアドバイスではありません。お問い合わせ等ございましたら、当事務所までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願いいたします。

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