弁護士コラム

弁護士コラム「企業価値評価と事業計画の関係」が掲載されました。

2024.01.26

以前のコラム「中小企業の企業価値と年買法」において、中小企業の企業価値を算定する簡易的な手法である、年買法(年倍法)について紹介させていただきました。

年買法とは、端的に言えば、会社の時価純資産(貸借対照表を時価評価して算出した純資産)をに、1年~5年程度の営業利益を加えた数値を、その会社の企業価値とする算定方法のことです。年買法は、主に仲介会社が主導するM&Aにおいて用いられていますが、証券会社などが主導する規模の大きなM&Aにおいて年買法が用いられることはなく、DCF法など、会社の将来の現預金・キャッシュフローに着目した算定手法が用いられることが通常です。

また、一般的なM&Aでは売主側で会社の事業計画(Business Plan)を策定する必要がありますが、事業計画の位置付けを十分に理解せず、直前の事業年度の数値が今後も継続するといった単純な事業計画を(会社あるいはアドバイザーが)策定し、それをそのまま買主に提示しているようなケースも見受けられます。

しかしながら、事業計画は企業価値評価を行う上で非常に重要な情報が含まれているため、その策定にあたっても慎重に進める必要があります。

そこで本コラムでは、企業価値評価と事業計画の関係について解説させていただきます。

 

1. 事業計画の内容について

一般株主に対して自社の今後の業績を説明しなければならない上場会社とは異なり、非上場のオーナー企業においては、事業計画を必ずしも策定する必要はありません。あり得るとすれば、金融機関からの借入れの際に、金融機関からの要請に応じて事業計画を策定する程度と思われます。

この際の事業計画の内容としては、今後3年程度の売上高、売上総利益、営業利益、経常利益の金額と、各項目について大まかな内訳が記載されている程度のものが一般的です。

他方で、上記のとおりDCF法などは会社の将来の現預金・キャッシュフローに着目した企業価値の算定手法であるところ、買主は、売主から提示された事業計画を前提に、当該事業計画の実現可能性などについて売主と交渉し、会社の将来の現預金・キャッシュフローを把握することとなります。

すなわち、DCF法などで企業価値を算定する上では事業計画に記載された数値がベースとなりますので、事業計画の内容次第で企業価値が大きく異なります。

企業価値評価を行う上で、会社の将来の現預金・キャッシュフロー以外にもポイントとなる要因は存在しますが、そのようなテクニカルな部分に注目する以前の問題として、買主に提示する事業計画の内容は、適切に検討する必要があります。

 

2. 事業計画の策定について

それでは、事業計画はどのように策定すればよいのでしょうか。

まず、M&Aを検討している売主が、証券会社などにフィナンシャル・アドバイザーとしての役割を依頼している場合には、事業計画の策定についてもフィナンシャル・アドバイザーの業務領域に含まれることが通常です。

また、会社の顧問となっている公認会計士・税理士などがおられる場合には、そちらに依頼することも選択肢です。もっとも、上記のとおり事業計画を策定する目的は様々ですので、M&Aのプロセスや企業価値評価について十分に理解している専門家でなければ、適切な内容の事業計画の策定を支援できるとは限りません。

そのため、売主がフィナンシャル・アドバイザーのサポートを受けていない場合には、M&Aについて十分な知識と経験がある公認会計士などを探索し、事業計画の策定支援を依頼することが望ましいと考えられます。

 

3. まとめ

本コラムでは、企業価値評価と事業計画の関係について解説させていただきました。

中小企業のM&Aでは、年倍法による企業価値評価が頻繁に用いられておりますので、事業計画の重要度が相対的に低くなりがちですが、ある程度の規模のM&Aになると、買主がDCF法などの会社の将来の現預金・キャッシュフローに着目した企業価値評価の手法を用いて検討するため、事業計画は極めて重要なものとなります。

そのため、事業計画の提示を求められた際には、どのような目的で用いられるのか、誰が策定するのかなどを事前に確認の上、適切に対応しなければ売主にとってマイナスとなりかねません。

当事務所では、公認会計士・税理士と連携し、事業計画の策定などを含め、経営者の皆様をワンストップでサポートさせていただいておりますので、M&Aでお悩みの際には、一度当事務所までご相談ください。

 

※本コラムの内容は、一般的な情報提供であり、具体的なアドバイスではありません。お問い合わせ等ございましたら、当事務所までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願いいたします。

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