弁護士コラム

弁護士コラム「事業承継時の借入金・連帯保証の処理」が掲載されました。

2024.05.24

 

事業承継が順調に進み、承継先との間で金額などの条件交渉を始める頃になると、会社の借入金や、当該借入金に関する経営者の連帯保証の処理が論点として浮かんできます。

例えば連帯保証は事業承継の実行前に外してほしいなど、経営者側、あるいは承継先のそれぞれにおいて「こうしたい」という希望があったとしても、それが相手方の意思と合致しているか、あるいは金融機関にも受け入れられるものであるのかは、当事者のみでは判断が難しい部分と思われます。また、事業承継について金融機関に事前に相談していない場合には(金融機関への事前の相談が必須ということではありません。)、借入金・連帯保証債務の処理について相談するタイミングについても悩まれることが多いと思われます。

そこで本コラムでは、事業承継時の借入金・連帯保証債務の処理についての考え方をご紹介させていただきます。

 

1. 金融機関からの借入金について

まず、会社の金融機関から借入金の取扱いについては、大きく分けて2つの考え方があり得ます。すなわち①全額を返済する、あるいは②何もしない、のいずれかです。

②の何もしないという選択肢を取ることができるかは、事業承継のスキームにより影響を受けます。株式譲渡であれば、会社のオーナーが変わるだけで、会社の内部に直ちに影響が生じるものではありませんので、何もしないという選択肢もあり得るところです。もっとも、金融機関との契約(銀行取引約定、金銭消費貸借契約など)において、会社の株主構成に変更が生じる場合には会社において一定の対応をしなければならないという、いわゆるChange of Control条項(一般的にはCoC条項と呼ばれます。)が規定されている場合には、当該規定に従って対応する必要がありますので、何もしないという選択をすることができないケースもあります。

他方で、事業承継のスキームが株式譲渡ではなく事業譲渡である場合には、会社の借入金を承継先が引き継ぐ場合、金融機関から同意を得る必要がありますので、何もしないという選択は基本的に取ることができないものとお考え下さい。

このように、事業承継のスキーム、また会社と金融機関との間の契約によっては、会社の金融機関から借入金については何もしないという選択もあり得るところです。

 

次に、①全額を返済するという選択肢をより細かく見てみると、(1)経営者が事業承継の対価をもって全額を返済するパターンと、(2)承継先が全額を返済するパターンに分けることができます。

このうち(1)は、あくまで経営者に十分な対価が支払われた場合となりますが、現預金が十分にあり、金融機関との付き合いで借入れを行っているような会社であれば、このパターンもあり得るところです。

また(2)については、承継先が自らに十分な資金がある場合はもちろんのこと、そうでなうくとも、既存の金融機関ではない金融機関から新たな借入れを行い、その新たな借入れをもって既存の金融機関への返済を行う、いわゆるリファイナンスもこのパターンに該当します。なお、プライベート・エクイティ・ファンドが承継先となる場合には、リファイナンスを行うことが通常です。

 

会社の金融機関から借入金の取扱いに関する大きな考え方としては上記のとおりとなりますが、事業承継のスキーム、承継先の資金力などにより取り得る選択肢は異なってきますので、その点は注意が必要となります。

 

2. 経営者の連帯保証について

会社の金融機関から借入金よりも重要なのが、経営者の連帯保証の処理です。

なお、金融機関からの借入れに関する連帯保証について、上記1.の金融機関からの借入金の処理において全額を返済した場合には、これにより連帯保証債務も消滅します(附従性)。そのため、経営者の連帯保証の処理が問題となるのは原則として、上記1.の金融機関からの借入金の処理において、何もしなかった場合となります。もちろん、リファイナンスを行った場合に、新たな借入れについて金融機関から連帯保証人を求められることはあり得ますが、(旧)経営者が新たな借入れについてまで連帯保証となるケースはあまり無いと思われます。

 

経営者の連帯保証の処理については、いわゆる経営者保証ガイドラインにより一定の整備が行われるようになりましたが、事業承継の局面では「こうしなければならない」という明確なルールはありません。そのため、基本的には金融機関との交渉による連帯保証の解除を目指すこととなります。

ここで注意しなければならないのは、金融機関に対して「株式を第三者に譲渡し、事業承継を行い自分は経営者ではなくなったので、会社の借入金の連帯保証を解除してほしい」とだけ伝えても、金融機関の立場からは、せっかく連帯保証人となってもらった以上は、事業承継をしたという理由だけで連帯保証を外すことに応じる合理的な理由が無いという点です。

上記のとおり、あくまで「金融機関との交渉」が必要になるため、相手方である金融機関がそれに応じる材料を提供しなければなりません。

典型的な材料としては、①承継先による連帯保証、②承継先が不動産等の資産を提供する、③会社が新たに定期預金口座を開設し、当該定期預金口座に質権を設定する、といったものがありますが、どのような方法を取り得るかは承継先・会社の財務状況によって異なります。

 

いずれにせよ、金融機関が連帯保証の解除に応じるだけの材料を提供する必要があり、単に「事業承継をしたのだから」とお願いしても、金融機関が連帯保証の解除に応じることには期待できない点は、ご注意ください。

 

3. まとめ

本コラムでは、事業承継時の借入金・連帯保証債務の処理についての考え方をご紹介させていただきました。

事業承継が「成功した」と言えるためには、単に経営者と承継先との間で取引が成立するだけでは足りず、会社の借入金や経営者の連帯保証債務の処理を含め、関係者が安心して事業を継続できる環境を整える必要があります。

特に経営者にとって、連帯保証債務の解除は優先順位が高いものですので、「連帯保証については契約を締結してから考えればよい」というのはリスクが高く、トラブルの原因になりかねません。

事業承継は一生に一度の取引ですので、検討と準備に十分な時間を取っていただき、それでもなお不安な点があれば、専門家へのご相談をお勧めいたします。

当事務所では、事業承継に関する初回のご相談は無料で承っておりますので、お気軽にお問合せください。 

 

※本コラムの内容は、一般的な情報提供であり、具体的なアドバイスではありません。お問い合わせ等ございましたら、当事務所までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願いいたします。

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