弁護士コラム

弁護士コラム「M&A仲介会社との契約における注意点」が掲載されました。

2024.07.09

多くの中小企業が後継者不足問題に直面している今日、M&Aは事業承継のための有力な選択肢の1つとなっています。

経営者が事業承継に取り組む際、M&A仲介会社に事業承継のサポートを依頼することがありますが、この際に経営者・会社がM&A仲介会社と締結する契約(通常は業務委託契約としての性質を有する契約となります。)は、会社の日常的な取引に関する契約とは異なり、特有の条項が規定されていることが一般的です。

また、M&A仲介会社に支払うことになる報酬のうち成功報酬については、金額が高額になることも多いため、成功報酬の算定方法については予め理解されておく必要性が高いといえます。

本コラムでは、このような特殊性を有するM&A仲介会社との契約に関し、特に注意すべき点を紹介させていただきます。

 なお、本コラムにおけるM&A仲介会社との契約とは、M&A仲介会社が売主・買主双方の「仲介」として行動するものを念頭に置いております。近年ではM&A仲介会社との契約の名称は「フィナンシャルアドバイザリー契約書」など「仲介」とは明記されていないことが多いため、契約の名称ではなく、契約の実質的な内容に基づいて、本コラムに記載の内容とご自身が締結される契約を照らし合わせていただければ幸いです。

1. M&A仲介会社の業務範囲について

M&A仲介会社の業務範囲については、締結前にしっかり確認し、必要に応じて修正を求めるべき点の1つです。

但し、冒頭で記載したとおりM&A仲介会社は売主・買主双方の「仲介」として行動しますので、代理人としての「交渉」が業務範囲に含まれることはありません。また、M&A仲介会社は法律事務所ではないので、弁護士のように契約書のレビュー・修正を行うことができない点にはご留意ください。

 その上で、一般的なM&A仲介会社の業務範囲ですが、M&A仲介会社との契約においては細かい内容が列挙されていることが多いものの、主要な業務は候補先とのマッチング、及び候補先とのコミュニケーションの窓口です。これらの業務が含まれていないことはあまり考えられませんが、M&A仲介会社に応じて契約における表現が異なることもありますので、締結前に確認しておくことが望ましいです。

 また、買主となる候補先が行うデュー・ディリジェンスのサポートが含まれていることも多いですが、デュー・ディリジェンスのサポートに関しては、単なる「助言」のみでなく、資料の収集、データ化、買主候補への提供といった、売主・会社側に大きな負担がかかる業務については、M&A仲介会社に依頼できる内容とすることをお勧めいたします。

2. M&A仲介会社へ支払う成功報酬・レーマン方式について

M&A仲介会社との契約において特に重要なのが、成功報酬に関する規定です。成功報酬の支払時期については、M&Aに関する最終契約の締結時に支払う旨の規定とされていることがありますが、契約が締結されたからといって、必ず実行されるとは限りませんので、成功報酬の支払時期についてはM&Aの実行時と規定することが望ましいです。

なお、M&A仲介会社によっては、契約の締結時に着手金の支払いを求められる場合もありますが、着手金は100万円、150万円などの固定額で規定されることが一般的ですので、本コラムでは成功報酬に関してご説明させていただきます。

M&A仲介会社へ支払う成功報酬については、「レーマン方式」というM&Aの譲渡対価等(取引金額)に対して一定の料率を乗じる計算方式によることが一般的です。

レーマン方式における取引金額と料率は以下のとおりとなっております。

・5億円以下に該当する部分:5%

・5億円超、10億円以下に該当する部分:4%

・10億円超、50億円以下に該当する部分:3%

・50億円超、100億円以下に該当する部分:2%

・100億円超に該当する部分:1%

「レーマン方式」という場合、上記の取引金額と料率は固定となりますが、案件の規模によってはレーマン方式をそのまま用いるのではなく、レーマン方式を応用し、取引金額あるいは料率を変化させたものを使用する場合もありますので、ご注意ください。

また、取引金額の設定方法もM&A仲介会社によって異なります。最も分かりやすいのは①株式譲渡代金をそのまま取引金額とするものですが、②株式譲渡代金に加えて金融機関からの借入等の有利子負債を加えた金額を基準とする方法、③株式譲渡代金に、金融機関からの借入等の有利子負債のみでなく、買掛金・未払金等の全ての債務を加えた金額を基準とする方法などもあります。

売主の立場からすれば、上記①の株式譲渡代金をそのまま取引金額とするものが望ましいですが、そうではないケースも多く見られますので、この点は事前に契約内容をご確認ください。

3. いわゆるテール条項について

テール条項とは、M&Aが実行されることなく、契約期間の満了などによりM&A仲介会社との契約が終了した後であっても、終了から一定期間(「テール期間」といいます。)が経過するまでにM&Aを実行すると、M&A仲介会社に対して成功報酬(の全額)を支払う内容の契約条項です。

M&A仲介会社へ支払う報酬は成功報酬がその大半ですので、M&Aの当事者が契約期間の満了まで交渉を遅らせ、契約期間の満了直後にM&Aを実行し、成功報酬の支払を免れるといった不公平な事態を防ぐことを想定したものですが、このテール条項を関するトラブルが近年増えております。

というのは、そもそもテール条項が契約の終了に関する規定に紛れ込んでいて分かりづらい場合が多く、経営者がテール条項の存在に気付いていないこともありますが、テール条項の内容として、M&A仲介会社が紹介した候補先でない会社との間でM&Aを実行した場合にも成功報酬の支払義務が発生する内容となっていたり、テール期間が契約期間の満了から3年間となっている等、M&A仲介会社に成功報酬を支払うことが、もはや公平と言えないような内容になっている場合があるためです。

上記のテール条項の本来の目的に照らせば、テール条項の内容としては、M&A仲介会社が候補先として紹介した会社との間のM&Aに限定すべきですし、テール期間もせいぜい1年~1年半程度あれば十分と考えられます。

不公平な内容のテール条項によって、M&Aに取り組むことが難しくなり、かえって事業承継の障害となってしまったケースもありますので、テール条項についても事前の確認、必要に応じて修正を依頼されることを強くお勧めいたします。

4. 専任条項について

最後にM&A仲介会社の専任条項についてご説明させていただきます。

専任条項とは、M&Aに関する業務を他のM&A仲介会社、証券会社等に依頼してはならない旨の契約条項です。

不動産の仲介でも専任条項はありますが、不動産の仲介も複数の仲介会社に依頼することが可能ですし、このことはM&Aについても同じです。

M&Aの相手方となる候補先は、M&A仲介会社によって紹介の可否が異なり、どのような会社が紹介されるのかは契約を締結するまで明かされないことも多いため、「M&A仲介会社と契約を締結したが、想定していたような候補先を紹介してもらえなかった」といった場合に、他のM&A仲介会社や証券会社に業務を依頼できるように、専任条項は規定しないことが望ましいです。

5. まとめ

本コラムでは、M&A仲介会社との契約に関し、特に注意が必要な点についてご説明させていただきました。多くの経営者にとってM&A仲介会社との契約は何度も経験するものではありませんので、M&A仲介会社と契約を締結する上で、どのような点に注意すればよいのか、なかなか判断が難しいのではないでしょうか。

会社の規模によっては、M&A仲介会社と契約を締結するタイミングから弁護士に業務を依頼することが難しいケースもあろうかと思われますので、M&A仲介会社との契約を確認するにあたり、本コラムの内容が少しでもご参考になれば幸いです。

 

※本コラムの内容は、一般的な情報提供であり、具体的なアドバイスではありません。お問い合わせ等ございましたら、当事務所までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願いいたします。

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