弁護士コラム

弁護士コラム「非上場株式の相続税評価の見直しと相続株式の譲渡」が掲載されました。

2026.08.19

2026年4月、国税庁は「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を設置し、非上場株式の相続税評価を定める財産評価基本通達の見直しに向けた議論を開始しました。

現在の非上場株式の相続税評価の枠組みは昭和39年の財産評価基本通達によっており、仮にこの見直しが実現すれば60年以上ぶりの大きな改正になると指摘されています。但し、本コラムを執筆している2026819日時点においては具体的な改正案・適用時期などが正式に公表されているわけではありません。

もし非上場株式の相続税評価額が引き上げられる方向での見直しがなされた場合には、相続税の負担が増加し、納税資金の確保がこれまで以上に重要な課題となります。

当事務所では以前より、非上場会社の経営者の相続開始により、会社経営に関与していない相続人が取得した株式の第三者への譲渡を証券会社と連携してサポートさせていただいておりますが、納税資金の確保の観点から、このような株式譲渡のニーズは今後高まるものと考えております。

そこで本コラムでは、非上場株式の相続税評価の見直しの概要と、相続により取得した株式を譲渡することのメリットについて解説させていただきます。

 

1. 非上場株式の相続税評価に関する主な論点

現在利用されている非上場株式の相続税評価方法は、①まず株主区分と会社規模の判定を行い、②その上で類似業種比準方式、純資産価額方式、配当還元方式の3つを使い分けるという構造になっています。

有識者会議で示されている論点は多岐にわたりますが、実務上特に注目されるのは、次のような点であると思われます。

まず、評価方式の一本化を含め、類似業種比準方式の位置付けそのものを見直すかどうかという点です。

類似業種比準方式による評価額が引き上げられる方向で見直しが行われた場合には、特に大会社・中会社に該当する企業において、自社株式の評価額が相応に上昇する可能性があると思われます。

また、資産管理会社の評価は純資産価額方式によることとするなど、会社の実態に応じた評価方式の適用を徹底するかどうかという点や、配当還元方式の還元率(10%)の見直し、同族株主の範囲・適用対象株主の判定方法をどう整理するかといった点も論点となります。

なお、純資産価額方式における引当金等の負債計上の取扱いも検討対象とされておりますが、この点はどちらかというと評価額を引き下げる方向に働くものと考えられます。

 

2. 相続により取得した株式を譲渡することのメリット

相続人が、非上場会社の経営者の相続開始により当該会社の株式を取得した場合、その株式を保有し続けるか、あるいは第三者に譲渡するかの選択は、経済的な側面のみでなく、心情的にも重要なご決断となります。

第三者への株式譲渡を選択する場合、次のようなメリットがあると考えられます。

まず、納税資金を確保できるという点は大きなメリットとなります。非上場株式は換価が困難であるにもかかわらず相続税の課税対象となるため、株式以外に十分な相続財産がない場合には、納税資金の手当てが常に大きな問題となります。

次に、税制上の特例を活用できる可能性があるという点です。相続財産を一定期間内に譲渡した場合の相続税額の取得費加算の特例(租税特別措置法39条)は、相続税額のうち一定額を株式の取得費に加算することができ、譲渡所得の圧縮につながります。

また、相続により取得した非上場株式を発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例(租税特別措置法9条の7)も重要です。通常であれば総合課税の配当所得として課税される部分についても、この特例により全額が株式等に係る譲渡所得として申告分離課税の対象となります。

いずれの特例も、相続の開始があった日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの譲渡であることなどが要件とされており、いわゆる「310か月」の期限管理が実務上の要点となります。

上記の特例の適用の可否、あるいは具体的な税額計算といった点につきましては、税理士にご確認いただくことをお勧めしております。

また、亡くなられた経営者に代わる後継者が会社にいない場合(後継者不在の問題)には、第三者への株式譲渡により、会社の事業と従業員の雇用を存続させることができる場合があります。

そして、経営に関与しない相続人にとっては、上場株式のように配当もなく、また処分も難しい株式を保有し続けるよりも、第三者に譲渡することによって流動性を確保する方が合理的であるという場面も多いように思われます。

加えて、相続税の評価方法の見直しにより将来の評価額が上昇する可能性を考慮すると、次世代へ相続されることによるリスクも考慮し、早期に第三者へ株式を譲渡することにも一定の意義があると考えられます。

 

3. 相続株式の譲渡を検討する際の留意点

上記のように、相続により取得した株式の譲渡には一定のメリットがあるものの、実際に実行する上では、法務・税務の観点からの検討が不可欠です。ここでは法務の観点から検討が必要となる事項を紹介させていただきます。

ます、株式を譲渡する上で必要となる会社法上の手続です。非上場会社においては、株式譲渡にあたり、取締役会又は株主総会による譲渡承認手続を要する旨が定款で規定されていることが一般的です。そのため株主が分散している場合や、取締役会が第三者への株式譲渡に反対している場合などは、第三者への株式譲渡が困難となる可能性がありますので、ご注意ください。

また、発行会社が自己株式として買い取る場合には、分配可能額による財源規制や株主総会決議等の手続要件を満たす必要があります。

そして実務上も頻繁に生じ得る事態として、相続人が複数いる場合、遺産分割が未了の株式は相続人間の準共有となり、権利行使者の指定を経なければ議決権を行使できないという問題もあります。

このように法務の観点のみでも複数の検討事項がありますが、加えて税務の観点からも検討が必要となり、これらは相互に関連することもありますので、相続株式の譲渡を検討される際には、早いタイミングから弁護士・税理士をはじめとする専門家へのご相談をお勧めしております。

 

4. 相続株式の譲渡に関する当事務所のサポート

当事務所では、相続により取得した非上場株式の譲渡について、方針・ストラクチャーの検討からM&Aの実行の全プロセスを一貫してサポートしております。

まず、株式価値の考え方の整理です。相続税評価額と、M&Aの実務において用いられる企業価値評価の考え方は必ずしも一致しないため、双方を踏まえた検討が必要になると考えられます。

次に、譲渡スキームの検討です。第三者へのM&Aによる譲渡、発行会社による自己株式の取得、後継者や他の相続人への譲渡といった選択肢について、法務・税務の両面から比較検討を行います。

株式の買手を探索する上でフィナンシャル・アドバイザーや仲介会社を利用される場合には、アドバイザリー契約や仲介契約の内容確認、専任条項・手数料条項等の検討についてもご相談をお受けしております。

また、売主・買主の双方の立場において、基本合意書や株式譲渡契約書の作成・レビュー、表明保証や補償条項の交渉、デューデリジェンスへの対応を行っております。

税務面については、M&Aに関する税務に詳しい公認会計士・税理士とも連携しながら、法務と税務の整合性を確保した形でお手伝いさせていただきます。

 

5. まとめ

本コラムでは、非上場株式の相続税評価の見直しの概要と、相続により取得した株式を譲渡することのメリット等について解説させていただきました。

相続税評価方法が今後どのようになるか確定したわけではないものの、議論の方向性は示されておりますので、既存のルールを前提とした対応策の検討や複数の選択肢の比較検討を早期に開始しておくことは非常に意義があると考えております。

当事務所では、証券会社で企業価値評価のサポートを行った経験を有する弁護士が、中小企業のM&A・事業承継を多数サポートしており、公認会計士・税理士とも連携し、法務・税務の両面から一貫したサポートを提供しております。

初回のご相談は無料でお受けしておりますので、相続した株式の処分等でお悩みの際は、以下のお問い合わせフォームよりお気軽にお問い合わせください。

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本コラムの著者

弁護士 八木 啓介(東京弁護士会所属)
大手法律事務所のM&Aチームに加え、2016年~2017年にかけて野村證券株式会社企業情報部にてフィナンシャル・アドバイザー(FA)として勤務し、多数のM&A・事業承継の実行を支援。弁護士とFA双方の実務経験を活かし、特に売主側でのM&A・事業承継支援を得意とする。これまでのM&A・事業承継の案件実績は250件以上で、医療法人のM&A・事業承継の支援実績も多数。
執筆・メディア実績:『M&A実務の基礎』(商事法務)、日本経済新聞『悪質M&A、表明保証に注意』、週刊東洋経済『中小M&A急増で相次ぐトラブル』など
最終更新日:2026年8月19日
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