弁護士コラム

弁護士コラム「会社分割と労働契約承継法-手続・スケジュールの概要-」が掲載されました。

2026.08.06

会社分割とは、M&A・事業承継やグループ会社の再編において頻繁に用いられる組織再編行為です。

会社分割では、権利義務を個別に承継する必要がある事業譲渡とは異なり、事業に関する権利義務が包括的に承継されるため、その事業に従事する労働者の労働契約も承継の対象となります。

もっとも、労働者の立場から見ると、自らの意思に関わらず雇用主が変わり得ることから、労働者保護のための特別な手続が「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」(いわゆる「労働契約承継法」)において規定されています。

労働契約承継法は、条文の数は少ないものの、やや内容が分かりづらいため、本コラムでは労働契約承継法の概要、想定スケジュールについて解説させていただきます。

 

1. 労働契約承継の基本的なルール

冒頭で、会社分割では承継される事業に従事する労働者の労働契約が承継されると記載しましたが、労働契約承継法では、承継される事業に「主として従事しているか否か」により、労働者の取扱いが異なります。

(1) 承継される事業に「主として従事する」労働者について

まず、承継される事業に主として従事する労働者の労働契約が、吸収分割契約・新設分割計画(以下「吸収分割契約等」といいます。)に記載されている場合、その労働契約は当然に承継会社・新設会社(以下「承継会社等」といいます。)に承継されます。

次に、承継される事業に主として従事する労働者であるにもかかわらず、分割契約等に記載されていない場合、その労働者は一定の期限までに異議を申し出ることができ、異議を申し出たときは労働契約が承継されます。

 

(2) 承継される事業に 「主として従事していない」労働者について

他方で、承継される事業に主として従事していない労働者が分割契約等に記載されている場合、その労働者は異議を申し出ることができ、異議を申し出たときは労働契約は承継されず、分割会社に残ることになります。

 

このように、主として従事する労働者は事業とともに移り、そうでない労働者は本人の意思に反して移されない、という考え方が基本となっています。

なお、総務・経理などの複数の事業に跨るバックオフィス業務に従事する労働者について、承継される事業に主として従事しているか否かを判断する際には、具体的な事情に応じて慎重に判断する必要があります。

 

2. 労働契約承継法に基づく手続

会社分割を行う会社は、労働契約承継法および関連法令に基づき、主として以下の手続を行う必要があります。

第一に、労働者への書面通知(いわゆる2条通知)です。承継される事業に従事する労働者等に対し、承継の有無、異議申出の期限等を書面で通知する必要があります。2条通知については、メールでの交付は認められず、手交または郵送により行うものとされています。

第二に、労働者との個別協議(いわゆる5条協議)です。承継される事業に従事する労働者との間で、承継に関する事項について個別に協議を行う必要があります。判例上、5条協議が全く行われなかった場合等には、労働者が労働契約の承継の効力を争い得るとされており、5条協議は実務上極めて重要な手続となります。

第三に、労働者の理解と協力を得るための措置(いわゆる7条措置)です。分割会社は、その雇用する労働者全体の理解と協力を得るよう努める必要があります。

このほか、労働組合への通知や、異議申出の受付・処理も必要となります。

 

3. 労働契約承継法に基づく手続のスケジュール

労働契約承継法に基づく手続は、会社法上の手続と並行して進めることになりますので、全体のスケジュール管理が重要となります。

まず2条通知については、株主総会の承認を要する会社分割の場合、労働者および労働組合に対して、株主総会の日の2週間前の日の前日までに行う必要があります。

そして、労働者の異議申出の期限日は、通知日から一定の期間(少なくとも13日間)を確保して設定する必要があります。

また、5条協議や7条措置は2条通知に先立って行うものですので、実際には吸収分割契約の締結や、新設分割計画の作成よりもかなり前の段階から準備を始める必要があります。

会社法上の債権者保護手続等とあわせると、会社分割全体のスケジュールはタイトになりがちです。労働関係の手続に不備があると分割の効力に影響し得るため、弁護士等の専門家に相談しながら、早期に全体スケジュールを策定することが重要です。

 

4. スケジュールの一例(効力発生日を71日とする吸収分割の場合)

参考として、効力発生日を71日とし、522日に株主総会の承認を得る吸収分割を例に、労働契約承継法に対応したスケジュールの一例を示すと以下のとおりです。

時期(例) 手続 留意点
3月頃まで 分割スキームの検討、承継対象事業・対象労働者の確定 「主として従事する労働者」の該当性を整理
4月上旬〜 7条措置(労働者全体の理解と協力を得るための説明等) 書面通知・5条協議に先立って開始
4月中旬〜 5条協議(対象労働者との個別協議) 通知前に十分な協議期間を確保。協議が全く行われない場合等には労働契約の承継の効力が争われるリスクがある
4月下旬 吸収分割契約の締結 労働契約の承継の有無を契約に明記
5月7日まで 労働者・労働組合への書面通知(2条通知) 2条通知の期限:株主総会の日(522日)の2週間前の日の前日
5月8日〜521 異議申出期間 通知の日と異議申出期限日との間に少なくとも13日間を確保
5月21 異議申出期限日 異議申出の受付・集計、承継対象の最終確認
5月22 株主総会(吸収分割契約の承認) 承認決議の2週間前の日の前日が通知期限の基準
5月下旬〜6月下旬 債権者保護手続(会社法) 官報公告・個別催告等。異議申述期間として1か月以上を確保し、効力発生日までに完了
7月1 効力発生日 労働契約が承継会社に承継

 

上記の日付はあくまで一例です。実際のスケジュールは、株主総会の開催の要否や、承継対象の従業員の人数等により前後するため、個別の案件に応じて逆算して策定する必要があります。

 

5. まとめ

本コラムでは、労働契約承継法の手続とスケジュールについて解説させていただきました。

会社分割はM&A・事業承継等に有用な手法ですが、労働契約承継法の手続を適切に履行しておかなければ、トラブルが生じたり、労働契約の承継の効力が否定されるリスクがあります。

当事務所では中小企業のM&A・事業承継を多数サポートしており、会社分割に伴う労働関係の手続についても豊富な経験を有する弁護士が、吸収分割・新設分割のいずれについてもサポートしております。会社分割でお悩みの際は、ぜひ当事務所にご相談ください。お問い合わせは、こちらのお問い合わせフォームからお願いいたします。

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本コラムの著者

弁護士 八木 啓介(東京弁護士会所属)
大手法律事務所のM&Aチームに加え、2016年~2017年にかけて野村證券株式会社企業情報部にてフィナンシャル・アドバイザー(FA)として勤務し、多数のM&A・事業承継の実行を支援。弁護士とFA双方の実務経験を活かし、特に売主側でのM&A・事業承継支援を得意とする。これまでのM&A・事業承継の案件実績は250件以上で、医療法人のM&A・事業承継の支援実績も多数。
執筆・メディア実績:『M&A実務の基礎』(商事法務)、日本経済新聞『悪質M&A、表明保証に注意』、週刊東洋経済『中小M&A急増で相次ぐトラブル』など
最終更新日:2026年8月6日
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