弁護士コラム

弁護士コラム「事業承継と遺留分①」が掲載されました。

2020.06.25

経営者の皆様がご息女・ご子息を後継者に指名して事業承継を行う場合には、生前贈与などにより無償で株式を譲渡することが多いと思われます。
もっとも、経営者の相続人が後継者のみでなく、後継者の他にも相続人がいる場合には、後継者以外の相続人の遺留分について配慮しておかなければ、相続開始後に相続人間で紛争が生じてしまうリスクがあります。

それでは、事業承継を行う上では、後継者以外の相続人の遺留分にどのように配慮すればよいのでしょうか。
なお、遺留分制度については「遺留分」のページをご参照ください。

 

1. 遺留分侵害の判断プロセス

ここでは、経営者(A)が保有する株式を、生前贈与により後継者(B)に譲り渡すスキームを例に、遺留分の侵害の有無を確認してみたいと思います。

① Aの相続人はBと配偶者(C)のみである。
② Aは、Bに対して会社の株式すべてを生前贈与し、Bが後継者として会社の代表取締役に就任した。
③ ②の生前贈与の時点での会社の株式の評価額は2億円であった。
④ Bに対する生前贈与の10か月後、Aの相続が開始した。
⑤ Aの相続財産は現金2億円のみである。
⑥ Bの経営手腕により会社の企業価値は向上し、Aの相続開始時点における会社の株式の評価額は4億円に上昇していた。

このケースでCの遺留分が侵害されるか否かを判断する上では、相続開始時点における株式の評価額が重要となります。
すなわち、民法上は遺留分算定の基礎となる相続財産を確定する上では、相続開始時点に被相続人(A)が保有していた財産に、相続開始前の1年間に贈与された財産を加えるものとされております。そのため、上記②でAがBに生前贈与した会社の株式も、遺留分算定の基礎となる相続財産に含まれることとなります。

さらに注意しなければならないのは、遺留分の計算にあたっては生前贈与の時点の価格ではなく、相続時の価格が基準となる点です。

そのため、上記⑥のように生前贈与を行った時点から会社の業績が伸びており、株価が上昇しているような場合には、上昇後の株価を基準として遺留分侵害の有無の判定がなされることになります。

以上を踏まえて上記のケースにおける遺留分侵害の有無を確認しますと、まず遺留分算定の基礎となる相続財産は、現金2億円に会社の株式4億円を加えた6億円となります。

そして、Cの遺留分は6億円に1/4を乗じた1億5,000万円となります。
もっともAの相続財産は現金2億円のみですので、Cが法定相続分(1/2)に応じて1億円を取得したのみでは、遺留分侵害が生じる結果となってしまいます。

2. 遺留分侵害がもたらす弊害

それでは、上記のケースのように事業承継に伴い遺留分侵害が生じてしまうと、いったいどのような問題が生じるのでしょうか。
上記のケースでCがBに対して遺留分侵害額請求を行った場合、Bは5,000万円をCに支払わなければならず、そのこと自体も問題の1つではあります。

しかし、株式の評価額が2億円のままであれば、Cの遺留分は4億円に1/4を乗じた1億円となり、遺留分侵害は生じなかったにもかかわらず、Bが自らの手腕で会社の業績を伸ばしたがために遺留分侵害が起きてしまったと考えた場合、後継者が会社の業績を伸ばすインセンティブが失われてしまいかねません。

事業承継は、後継者に株式を譲り渡すことがゴールではなく、後継者が会社の業績を伸ばし、さらに次世代の後継者に会社を引き継がせることが目的です。にもかかわらず、後継者が会社の業績を伸ばす意欲を失うような事態は本末転倒とさえ言えます。

3. 経営承継円滑化法の活用

上記のような事態に対処するために、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(経営承継円滑化法)では、遺留分に関する民法の特例として、①除外合意と②固定合意という制度を設けており、これらの制度を活用することで事業承継の際に遺留分侵害が生じないようにアレンジすることが可能となります。
次回のコラムでは、除外合意と固定合意の制度の概要と、事業承継の場面でのこれらの制度の活用方法について解説させていただきます。

 

※本コラムの内容は、一般的な情報提供であり、具体的なアドバイスではありません。

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