弁護士コラム

弁護士コラム「事業承継:後継者としての準備」が掲載されました。

2020.09.21

事業承継が行われる場合、現経営者は時間をかけて事業承継に向けた準備を行うことが一般的です。一方で事業承継のうち親族内承継においては、現経営者から株式などを譲り受ける後継者は、事業承継が実際に行われるまで積極的に事業承継に関与されていないケースが多く見受けられます。

事業承継には取引としての側面があり、現経営者と後継者が一体となって取り組まなければ、事業承継の実行後に大きな問題が生じるリスクがあります。

そこで本コラムでは、後継者として事業承継にどう取り組むべきかについて解説させていただきます。

 

1. 後継者による準備の視点

後継者の準備の視点は、①会社の経営に向けた準備と、②事業承継の手法の検討に分類することができます。①の視点は事業承継の実行後に後継者が新たな経営者として、会社をどのように経営していくか、②の視点は事業承継をどのような手法で行うことが自らにとって、また会社の経営にとってベストなのかと言い換えることができます。

多くのケースでは、①の視点の検討はなされているものの、②については後継者の視点からはあまり検討がなされていないのではないでしょうか。

そこで以下では①・②の視点から、後継者による準備について解説させていただきます。

 

2. ①会社の経営に向けた準備

まず①の視点ですが、これは後継者が事業承継の時点で会社の経営にどの程度関与しているか、また事業承継の実行までどの程度時間があるのかにより、どのような準備ができるのかは変わってきます。

事業承継が実行された日のうちに会社の従業員・取引先などに向けたメッセージを公表し、翌日から新たな体制で経営を実行できるよう、ノウハウなどの引継ぎなども完了されているというのが理想的ですが、このような形で事業承継が実行されるのは、後継者が会社の役員などに就任してから数年が経過し、後継者が会社の経営についてある程度理解されており、また従業員・取引先から信頼を獲得していることを前提に、事業承継の実行まで少なくとも6か月~1年程度あることが条件となってきます。もっとも、後継者がそもそも社外で働いている場合も珍しくなく、そのような場合に数か月の準備期間で後継者に会社の経営を委ねるというのは無理があると言わざるを得ません。

後継者としては少なくとも、事業承継の実行の6か月以上前から会社の経営に関与し、会社の経営における重要なポイント(従業員との関係性・重要な顧客の情報・ノウハウなど)を確認した上で、事業承継の実行後の会社の経営方針(準備期間が短い場合には、事業承継の実行から一定期間が経過した後の経営方針)を検討しておくことが望ましいと言えます。

 

3. ②事業承継の手法の検討

事業承継の手法には様々なものがあり、いずれの手法を選択すべきかは経営者の意向・後継者の資金力・後継者以外の相続人有無などにより異なります。

例えば、現経営者が会社の発行済株式の全てを保有しており、その全てを後継者に贈与する、という手法は、現経営者の相続人が後継者以外にはおらず、後継者が贈与税を問題なく支払えるのであれば、あまり問題となりませんが、後継者以外の相続人がいる場合には遺留分侵害請求がなされるリスクがありますし、後継者が贈与税を十分に支払えないことも考えられます。そのような場合には、種類株式を用いた事業承継の検討や、特例事業承継税制と呼ばれる制度を利用することも検討しなければなりません。

もちろん、現経営者がそのようなリスク・問題を踏まえて事業承継の手法を検討されているのであれば大きな問題とはなりませんが、事業承継の制度は頻繁に変わっており、適切な専門家に依頼しなければ無用な不利益を被る可能性もあります。

事業承継の手法は、法務・税務面からの検討が不可欠ですので、現経営者が弁護士・税理士などに相談しておらず、後継者として不安を感じられている場合には、早期に専門家への相談を開始することをお勧めいたします。

 

4. まとめ

本コラムでは、後継者の立場から、事業承継にどう取り組むべきかについて解説させていただきました。

上記のように、後継者が既に会社の経営に関与しており、従業員などの会社のステークホルダーと一定の関係を築いていることが望ましいですが、経営者が率先して後継者に事業承継について相談されることは多くなく、後継者は受動的に事業承継に関与されている場合が、残念ながら少なくありません。

しかしながら、後継者としても準備が十分でない状態で会社の経営を任されたのではリスクを抱えることになりますし、何より従業員・取引先などが不安を感じてしまいかねません。

後継者として、事業承継についてどう取り組むべきかについてお悩みの場合には、一度当事務所までご相談ください。公認会計士・税理士などの専門家とワンチームでサポートさせていただきます。

 

※本コラムの内容は、一般的な情報提供であり、具体的なアドバイスではありません。お問い合わせ等ございましたら、当事務所までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願いいたします。

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