中小企業においては、オーナー兼経営者が会社の株式を100%持たれている場合が多いですが、オーナー以外の方が一部の株式を保有されている場合も見られます。
当事務所では、事業承継を検討されている経営者の方からご相談を受ける際には、株主の構成がどのようになっているかを必ず確認させていただいております。これは、①経営者のみが株主、あるいはオーナー兼経営者とご親族のみが株主であるケースと、②経営者とご親族に加えて従業員・取引先なども株主になっており、株主が分散しているケースでは、事業承継の成功の難易度が大きく異なるためです。
本コラムでは、株主が分散しているケースにおける事業承継のリスクや対応策について、概要を解説させていただきます。
1. 株主が分散する原因
そもそも、なぜ株主が分散する事態となるのでしょうか。
現在の会社法の下では、株式会社を設立する際には発起人となる方が出資をし、設立時の株主となります。そのため発起人が複数の場合には、設立時から複数の株主が存在することとなりますが、その設立時の株主の相続により株式が複数人に承継されることは珍しくありません。
また、設立時にはオーナーのみが株主であっても、オーナーが設備投資のための資金調達の手段として新たに株式を発行し、当該株式を第三者が取得することもあります。
すなわち、どのような会社であっても株主が分散する事態は生じ得ます。
2. 株主の分散によるリスク
それでは株主が分散していると、事業承継の場面でどのようなリスクがあるのでしょうか。まず親族内承継のケースでは、経営者が議決権の過半数を保有していなければ、経営者が指名するご息女・ご子息などを、確実に会社の取締役に選任することができません。もちろん、他の協力的な株主と合わせて過半数の議決権を確保できていれば特段の問題はありませんが、そうでない場合には親族内承継をスムーズに進めることが難しくなる可能性があります。
さらに問題となるのが社外の第三者への承継のケースです。社外の第三者への承継の場合、買主となる第三者は少なくとも3分の2の議決権を確保することを希望するのが通常です。3分の2の議決権を確保していれば、(原則として)自らの議決権のみで株主総会の承認を得ることができますし、いわゆる「スクイーズ・アウト(キャッシュアウト)」により、その気になれば少数株主から強制的に株式を取得することもできるためです。
そのため社外の第三者への承継を検討されている場合には、買主に対して3分の2の議決権を承継させられる状態がどうかが、事業承継の成功率に大きな影響を及ぼすことになります。
3. 株主の分散への対策
それでは、株主が分散している場合にはどのような対策を取るべきなのでしょうか。
まず重要なのは、株主が分散している場合に、その原因が株主総会議事録などの資料から確認できるようにしておくことです。
特に第三者への承継の場合、事業承継の実行に先立ち、後継者は会社に対してデューデリジェンスを行うことが通常です。デューデリジェンスの過程で株主が分散していることが判明した場合に、なぜ分散しているのかを客観的資料から示すことができなければ、現在の株主が本当の株主かを確認できず、大きな問題となり得ます。もっとも、多くの中小企業ではそのような客観的資料がない場合も多く、その場合には契約書で手当てを行うことにより解決できるケースもあります。
また、事業承継に先立ち、売主となる経営者が他の株主から事前に株式を買い集めておくことも考えられます。特に少数株主が数名の場合には、事前に株式を買い集めておくことは有効な手段となります。但し、買い集めの際の価格をどのように設定するかについては税務上の問題もありますので、事前に税理士に相談することをお勧めしております。
4. まとめ
本コラムでは、株主が分散している場合の事業承継のリスク・対応策などの概要について解説させていただきました。
当事務所の弁護士は多くの中小企業の事業承継に取り組んでおりますが、株主の分散から生じる法的問題は、非常に重要ではある者の、典型的な問題といっても過言ではありません。
そのため、事業承継の準備として対応策を検討することも重要ですし、事業承継の具体的な話が進んだ段階で問題が顕在化した場合には、契約書などで手当てをすることが必要となります。
株主が分散していること自体が事業承継を直ちに困難にするものではありませんので、このような問題でお悩みの方はぜひ当事務所までご相談ください。
※本コラムの内容は、一般的な情報提供であり、具体的なアドバイスではありません。お問い合わせ等ございましたら、当事務所までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願いいたします。