前回のコラムでは、事業承継と競業避止義務の関係のうち、競業避止義務とは何か、競業避止義務が必要な理由、また競業避止義務をめぐる紛争の概要について解説させていただきました。
本コラムでは、実際に(前)経営者が後継者から競業避止義務違反を主張された場合の対応方法について、競業避止義務の有効性の限界も含めて検討してみたいと思います。
1. 競業避止義務の有効性
競業避止義務は個人の職業選択の自由(憲法第22条第1項)を制約するものですので、その有効性については議論があります。
競業避止義務の有効性が争点となった訴訟もいくつかあり、最終的にはその競業避止義務の内容が、株式譲渡の代金として受領した金額、競業避止義務の範囲(時間的・地理的制約の有無・内容)などの諸般の事情に照らして合理的であるか否かにより、裁判所は当該競業避止義務の有効性を判断する傾向にあります。
そのため、一概に「●年を超える競業避止義務は無効」といった線引きはできず、株式譲渡契約・競業避止義務の内容に照らして慎重に判断する必要があります。
2. 競業避止義務違反を主張された場合の対応について
次に、競業避止義務違反を主張された場合の対応について検討してみたいと思います。
事業承継の実行後に、競業避止義務を課されている(前)経営者が対象会社と類似の事業を営む会社を立ち上げるような典型的なケースでは、後継者もいきなり訴訟提起・仮処分の申立てをするのではなく、弁護士を通じて当該事業の取りやめを求めることが多いと思われます。
このような場合に、過去の裁判例に照らして(前)経営者が負っている競業避止義務に合理性が認められる可能性が高い(裁判所において競業避止義務が有効と認められる可能性が高い)場合には、(前)経営者としては当該事業を停止するか、後継者に金銭を支払うことで事業の継続を認めてもらう、といった対応が一般的です。このような場合に(前)経営者が後継者の要請を無視して事業を継続していると、仮処分の申立てや損害賠償請求訴訟を提起されるリスクがあります。
他方で、(前)経営者が負っている競業避止義務の有効性が微妙なケースでは、どのように対応すべきか悩ましいところです。裁判所で争うか、交渉で和解に持ち込むかの選択は、(前)経営者・その弁護士のスタンスによるところも大きいと思われます。もっとも、訴訟が提起されると紛争の存在が世間に明らかになりますので、近時の商品名(商標)をめぐる紛争などを考慮すれば、風評被害などを避けべく和解するという判断もあり得るところです。
3. まとめ
本コラムでは、競業避止義務の有効性と、実際に競業避止義務違反を主張された場合の対応について取り上げました。
競業避止義務をめぐる紛争の根本的な問題は、競業避止義務についての理解が十分でないまま契約を締結し、事業承継を実行してしまうことにあります。
事業承継の入口の段階で、競業避止義務の内容をどう設定するか、一定の場合には競業避止義務が(一部または全部)免除されるか、といった内容を詳細に定めておくことで、無用な紛争を回避することができます。経営者の皆様が競業避止義務を負う際には、上記の点に留意して契約書を締結することをお勧めいたします。
※本コラムの内容は、一般的な情報提供であり、具体的なアドバイスではありません。お問い合わせ等ございましたら、当事務所までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願いいたします。