弁護士コラム

弁護士コラム「事業承継と経営者の連帯保証②」が掲載されました。

2021.06.29

日本の中小企業においては、金融機関からの借入れ・取引先に対する債務について、経営者個人が連帯保証を行うという慣行が今もなお残っています。

前回のコラムでは、経営者保証がスムーズな事業承継の弊害となっていること、また金融機関からの借入れと経営者保証ガイドラインの適用について解説させていただきました。

本コラムでは、取引先に対する債務への経営者保証の問題について、ポイントを紹介させていただきます。

 

 

1. 取引先に対する債務と経営者保証

中小企業の経営者は、金融機関からの借入れのみでなく、取引先に対する債務についても、個人で保証を行っていることが少なくありません。

取引先に対する債務についての保証には、①特定の契約から生じる債務に限定されず、その取引先に対する債務すべてについての保証であること、そのため②会社が支払を行えば保証債務の額は減少するが、新たな取引が行われると保証債務の額も増加する、という特徴があります。

このような保証は「根保証」と呼ばれ、民法465条の21項では「一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約」を「根保証契約」と定義しています。

 

根保証のうち、特に経営者などの個人が保証人となる個人根保証については、20204月から施行された新民法において「極度額」、すなわち保証人が負担する債務の上限を定めなければ、効力を生じないこととされています(民法465条の22項)。

これまでの根保証は極度額の金額がないものも多く、保証人が負担する債務が想定より多額となることもあり、問題視されていたことからかかる改正がなされるに至りました。

 そのため、20204月以降に締結される個人根保証契約については、極度額の定めがなければ効力を生じない点にはご留意ください。なお、20204月より前に締結された個人根保証契約については、契約が更新等されない限り、極度額の定めがなくとも有効となります。

 

2. 取引先に対する債務と事業承継

経営者が取引先に対する債務について個人で(根)保証を行っていると、事業承継の場面でこの経営者保証の取扱いが問題となります。

取引先からすれば、事業承継は経営者・後継者・会社の問題であり、事業承継を契機として経営者保証を解除する理由はありません。一方で後継者としては、個人で(根)保証をすることに心理的抵抗があることが通常です。

 

1つの解決策としては、会社が取引先に対して一定の保証金を差し入れて、経営者保証を解除してもらうことが考えられます。

特に従前の根保証契約に期間が設定されているケースでは、上述したとおり、20204月以降の更新のタイミングで極度額の定めが必須となりますので、経営者保証の代わりに保証金を差し入れるという提案にも十分な合理性があると思われます。

会社が差し入れる保証金の金額ですが、1か月の平均取引額をベースに、1か月分、あるいは2か月分とすることなどが考えられます。

保証金の金額については特にルールはなく、あくまで取引先との個別交渉になりますので、場合によっては事業承継をきっかけに、取引先を見直すという選択肢もあり得るところです。

 

3. まとめ

本コラムでは事業承継と経営者保証の問題のうち、取引先に対する債務への経営者保証について、ポイントを解説させていただきました。

経営者保証と事業承継の問題は、経営者保証ガイドラインの策定や個人根保証契約の制限など、経営者・後継者に有利な方向に変化しています。

経営者保証が障害となり事業承継が実行されないことは大きな経済的損失ですので、当事務所では、経営者保証の問題を含め、事業承継に伴う様々な法的問題を解決するためのアドバイスを行い、円滑な事業承継の実行をサポートしております。

事業承継に関してお悩みの方は、当事務所までご相談ください。初回相談は無料で承っておりますので、お気軽にお電話又はお問い合わせフォームからご連絡ください。

 

※本コラムの内容は、一般的な情報提供であり、具体的なアドバイスではありません。お問い合わせ等ございましたら、当事務所までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願いいたします。

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