弁護士コラム

弁護士コラム「従業員に対する新株発行」が掲載されました。

2021.07.19

株式会社は株主総会決議により株式を発行することが可能ですが、これまで日本の中小企業では、株式を発行することはあまり一般的ではなかったように思われます。

これは、中小企業の株主がオーナー経営者のみである場合、オーナー経営者は自分自身以外の株主が存在することを避ける傾向にあったため、設立から相当な期間が経過していても株主がオーナー経営者だけということは珍しくありませんでした。

一方で、ベンチャー企業においては従業員がストックオプション(新株予約権)のみでなく、株式そのものを保有しているケースが増えております。

そこで本コラムでは、中小企業が従業員に対して株式を発行するメリットや、その際のポイントについて紹介させていただきます。

 

1. 従業員に新株を発行するメリット

まず、中小企業が従業員に対して株式を発行するメリットはどこにあるのでしょうか。

ベンチャー企業が従業員に対して株式(あるいはストックオプション)を発行する目的は、ベンチャー企業が上場を目指しており、上場すると保有している株式の価値が飛躍的に増加するという前提のもとで、株式を保有している従業員に対して会社の業績向上のインセンティブを与える点にあると言われています。

そうすると、上場を目指していない中小企業においては、上記のベンチャー企業のような目的で従業員に株式を発行することには合理性がないとも考えられますが、発行する株式の設計次第では、同様に従業員に対して会社の業績向上のインセンティブを与えることが可能です。

具体的には、株式の割当を受けた従業員が、会社に対して自らの株式を時価で買い取るよう請求できる仕組みや、退社の際に、退社時点の業績に応じた金額で買い取るような仕組みを予め定めておくことで、従業員にインセンティブを付与することが可能となります。

 

2. 資金調達の手段としての株式発行

また、株式の発行をする際には、資金調達の目的があることが前提とされています。

そのため、会社が窮境に陥り事業再生を行う局面においては、株式を発行することは一般的に行われております。

事業再生の場面での株式の発行は、いわゆるスポンサーに対するものが一般的ですが、スポンサーが見つからない場合には、従業員に対して株式を発行し、従業員と一蓮托生で再建に向けて取り組む会社も少なくありません。

特に事業再生の場面での株式の発行は、従業員にとっても低い価格で株式を引き受けられるというメリットがありますので、資金調達に難航している会社にとっては有力な選択肢となります。

 

3. 従業員持株会の利用

さらに、個々の従業員では株式を取得する資金が乏しい場合には、従業員が資金を拠出しあって従業員持株会を組成し、従業員持株会において株式を引き受けるケースことも可能です。

従業員持株会は民法上の組合の形式を取ることが多く、持株会に参加する従業員は組合のメンバーとして、それぞれの持分に応じて株式を保有することになります。

従業員持株会を利用する場合、従業員持株会規約を作成し、持株会の運営や資産の管理に関する細かいルールを作成することになるため、個々の従業員が直接株式を引き受けるケースよりも難易度は上がりますが、より多くの従業員に対して会社の業績向上のインセンティブを付与できるという大きなメリットもあります。

 

4. まとめ

本コラムでは、中小企業が従業員に対して株式を発行するメリットや、その際のポイントについて紹介させていただきました。

新型コロナウイルス感染症の影響で資金繰りが厳しいものの、金融機関からの借入れはなるべく避けたい会社にとって、従業員に対する株式の発行は一つの解決策となります。

当事務所では、株式の発行に必要な書類作成や従業員持株会の組成、さらに金融機関との交渉を含め、中小企業の資金繰りをサポートしておりますので、お気軽にお電話又はお問い合わせフォームからご連絡ください。

 

※本コラムの内容は、一般的な情報提供であり、具体的なアドバイスではありません。お問い合わせ等ございましたら、当事務所までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願いいたします。

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