弁護士コラム

弁護士コラム「M&A・事業承継の実行後の契約の解除」が掲載されました。

2024.02.19

近年、M&A仲介会社やM&Aプラットフォームを利用したM&A・事業承継が活発に行われており、一昔前と比較するとM&A・事業承継への取組みのハードルがかなり下がっているように思われます。

M&A・事業承継を活用することで、中小企業の成長、あるいは後継者不在の企業の次世代への承継が可能となりますので、M&A・事業承継を専門的にサポートしている私としても、このような流れ自体は望ましいことだと感じております。

その一方で、M&A・事業承継への取組みのハードルが下がることで、「M&A・事業承継は自分たちだけでできる」と考えられる方も増えているようで、アドバイザーを利用せず、当事者だけでM&A・事業承継を行った結果、トラブルとなる事例も増えています。

そこで今回のコラムでは、M&A・事業承継にまつわるトラブルのうち、「M&A・事業承継の実行後、契約を解除できるか」という点について、解説させていただきます。

1. M&A・事業承継という「取引」の特殊性

M&A・事業承継は、弁護士であっても専門的な知識・スキルを有する者は限られており、上記のとおり取組みへのハードルが下がったとはいえ、特殊な取引であることに変わりはありません。なぜM&A・事業承継が特殊な取引であるかについてですが、法務・会計・税務といった専門家からの視点を除外しますと、この世の中に全く同じ会社というのは存在せず、M&A・事業承継の対象となっている「その会社」に関する取引であることにその理由があると考えています。

「その会社」について、会社の強みはどこにあるのか、あるいは伸びしろがどこにあるのかといった分析や企業価値の評価を行い、それを踏まえた取引スキームの検討、当該スキームのリスク分析、調査、契約の作成を行うといった、(応用はできるものの)他のM&A・事業承継への転用できないプロセスを経る取引であることが、M&A・事業承継の特殊性と考えられます。

 

2. M&A・事業承継の実行後に契約を解除できるか

さて、上記のとおり特殊な取引であるM&A・事業承継について、契約を締結し、実際にM&A・事業承継を実行した後に、「聞いていた話と違う」、「売主が必要な書類を渡さない」、「オーナーが連帯保証人となっていた連帯保証契約が外れない」といったトラブルが生じることは、残念なことですが、少なくありません。

このようなトラブルが生じた場合、基本的には契約の内容に沿って相手方と交渉し、解決することなりますが、そのようなプロセスでは解決できない場合、「契約を解除したい」という考えに至ることもあろうかと思われます。

確かに、「聞いていた話と違うのだから、契約を解除できてしかるべき」と考えることにも一理ありそうですが、M&A・事業承継に関する契約では、一度締結した契約を解除できるのはM&A・事業承継の実行前までで、実行後は解除できない、という取決めをすることが一般的です。

これは、M&A・事業承継を実行した後も契約を解除できるとなると、ビジネスに大きな混乱が生じる可能性が高いため、M&A・事業承継の実行後に生じたトラブルは、金銭的な補償(賠償)で解決するという考え方に基づくものとなります。

もちろん、法律で「M&A・事業承継の実行後は契約を解除できない」と決められているわけではありませんので、当事者がそのように規定することは自由ですが、M&A・事業承継の実行後に契約を解除することで生じる影響に鑑みますと、詐欺的な行為が発覚した場合など極端なケースを除き、契約において一般的に「M&A・事業承継の実行後も契約を解除できる」という内容の規定を設けることは、難しいと考えています。

 

3. M&A・事業承継の契約の「ひな形」について

なお、M&A・事業承継の実行後の契約の解除の可否に関連して、M&A・事業承継に関する契約の「ひな形」についての質問をいただくこともあります。

M&A・事業承継に限らず、多くの取引については「ひな形」と呼ばれるものが存在しますが、多くの方が誤解されているのが、ここで言う「ひな形」というのはあらゆる取引について、何らの加工を必要とすることなく使える契約のことではなく、「この種の取引ではこのような規定を設けることが一般的」というものに過ぎません。

そのため、仮に「ひな形」を用いるとしても、その「ひな形」をたたき台として「その会社」に関する分析結果を反映し、また必要な規定を追加しなければ、ご自身が想定しているものとは異なる内容の契約となる可能性が高いとお考えください。

上記のような誤解を生じさせる可能性がありますので、私自身はこのような質問をいただいた際には、「当事務所にはM&A・事業承継の契約のひな形は存在しない」という回答をさせていただいております。

 

4. まとめ

本コラムでは、M&A・事業承継にまつわるトラブルのうち、「M&A・事業承継の実行後、契約を解除できるか」という点について解説させていただきました。

M&A・事業承継にまつわるトラブルは様々で、アドバイザーが付いていてもなおトラブルが生じることはありますので、そのためにも契約をしっかりと規定しておき、何か生じた場合のリスク負担を予め合意しておくことが重要となります。

当事務所では、M&A・事業承継のご相談については、トラブルに関するものを含め、初回相談を無料で承っておりますので、M&A・事業承継に関するトラブルでお悩みの方は、お気軽にご相談いただければ幸いです。

 

※本コラムの内容は、一般的な情報提供であり、具体的なアドバイスではありません。お問い合わせ等ございましたら、当事務所までご遠慮なくご連絡下さいますよう、お願いいたします。

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